北朝鮮の金正男氏(45)暗殺を主導した北朝鮮籍の男4人が、すでに“別人”に成り代わっている可能性が出てきた。犯行を見届けた主犯グループは迂回ルートで平壌に帰国。4人は国際手配中だが、北朝鮮は存在そのものを否定している。過去の歴史を振り返ると、暗殺を遂行した工作員は名を変え、顔を変え、別人となり部隊に戻る。4人のうち1人は平壌に戻らず、“整形大国”タイで行方をくらましたという情報もあり、新たな暗殺事件も危惧されている。

 当初「稚拙な犯行」と言われていた正男氏の暗殺劇。だが、日を追うごとに組織的で綿密な作戦のもと実行されていたことがわかってきた。実行犯として逮捕されたのはベトナム国籍のドアン・ティ・フオン容疑者(28)とインドネシア国籍のシティ・アイシャ容疑者(25)。2人は何らかの方法で猛毒のVXガスを正男氏の顔に塗りつけ、現場から逃走した。

 だが、本当の“主犯”は現場20メートルの距離で犯行を見届けた北朝鮮籍のリ・ジェナム(57)、オ・ジョンギル(55)、ホン・ソンハク(34)、リ・ジヒョン(33)の4人の容疑者だ。現場責任者は最年長のジェナム容疑者とみられ、全員が暗殺などの“裏仕事”を行う北朝鮮偵察総局の工作員である可能性が高い。

 韓国メディアによると、4人は実行犯2人が失敗した場合、代わりに暗殺を遂行するためスタンバイ。万が一、警察に確保されればその場で自決する覚悟だったという。犯行後、4人はジャカルタ行きの航空機に飛び乗り、マレーシアを出国。中国の監視を避ける形でドバイ、ウラジオストクを経由し平壌に戻ったとされる。うちジョンギル容疑者については、ジャカルタからタイのバンコクに向かい、姿をくらましたという情報もある。

 正男氏暗殺を成功させ、意気軒高と平壌に戻った主犯グループ。彼らはどのような扱いを受けるのか?

 軍事アナリストの黒井文太郎氏は「実行犯が逮捕されたり、主犯グループのアシがついたり、お世辞にも完全犯罪とは言えないが、最大目標である金正男氏の暗殺は達成した。これなら成功の部類に入る」とコメント。

 北朝鮮では成功と失敗の区別がわかりやすく「成功すれば褒美をもらえて、失敗したら『死ね』となる。他の工作員の士気を高めるためにも、成功させた4人は英雄扱いされるだろう」(同)。

 事件を機に国際社会からますます孤立する北朝鮮だが、いまも「捜査はでっち上げ」「韓国の陰謀だ」と主張している。国際手配中の4人に至っては、その存在自体を認めていない。

 黒井氏は「これからも北朝鮮が犯行を認めることは絶対にない。国際手配中の工作員が名前を変え、全身整形して“別人”に生まれ変わることもあり得る。しばらくは表舞台には出てこないが、いずれは部隊に戻るだろう」と話す。

 事実、1997年2月に北朝鮮の工作員2人が故金正日総書記のおいで、韓国に亡命した李韓永氏を銃殺。その7か月後、別の事件で逮捕された工作員夫婦の取り調べで、李氏殺害の実行犯2人が祖国で英雄称号を授与され、新たな任務のため整形手術を受けたことが語られた。

 そこで気になるのが、4人のうち、タイで消息が途絶えたとされるジョンギル容疑者だ。タイといえば、韓国と並ぶ整形大国で、性転換手術も盛んだ。

「ジョンギル容疑者は現場責任者のジェナム容疑者に次ぐ重要な立場で、暗殺計画の立案に関わったとされる。タイに向かったのは、いち早く整形手術を施し、別の暗殺ターゲットを狙うためか。性転換手術で女性になっている可能性もある」とは半島情勢に詳しいライター。

 殺害を指示したとされる金正恩朝鮮労働党委員長は正男氏だけでなく、その長男のキム・ハンソル氏(21)や韓国要人、亡命した脱北者を暗殺対象にしている。再び惨劇は起きてしまうのか――。