異常すぎる監禁実態――。今年3月に埼玉県朝霞市の少女(15)が2年ぶりに保護された誘拐事件で、未成年者誘拐と監禁致傷、窃盗の罪に問われた東京都中野区の元千葉大生、寺内樺風(かぶ)被告(24)の初公判が27日、さいたま地裁で開かれた。少女を洗脳するため、CIAの洗脳実験資料やオウム真理教の洗脳ビデオまで研究していたことが判明。誘拐の目的を「自分と同じく社会から隔離された人間を観察したかった」と、学者気取りの口調で少女を「被験者」呼ばわりし、被害者への謝罪はなかった。

 寺内被告は14年3月10日、朝霞市で下校途中だった当時中学1年の少女を車に乗せて誘拐し、千葉市内の自宅アパートに監禁した。今年に入って東京・東中野のマンションに引っ越し。3月27日、少女は寺内被告が外出した隙に脱出、警察に保護された。寺内被告は翌28日、逃亡先の静岡県伊東市で自殺を図って、首から血を流した状態で捕まった。起訴状では、少女を脱出困難な心理状態に陥らせ、重度の心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負わせたなどとされる。

 寺内被告は、監禁について「少女を誘拐して数日から数週間は監視したが、それ以降2年間は監視という意識はない」などと主張し、起訴内容を一部否認。誘拐罪は認めた。

 弁護側は「洗脳で暴力を振るうこともなく、被告人が大学やバイト、帰省などで外出する際は少女を一人で部屋に残していた」と主張。「被告は統合失調症を患っている可能性が高い」として刑事責任能力を争うと表明し、地裁は弁護側の請求に基いて寺内被告の精神鑑定を実施すると決めた。

 初公判では、寺内被告が「監視していない」と言うには、あまりに異常な、映画「ミザリー」にも似た2年間の監禁生活の実態が明らかになった。

 部屋には何か所も補助錠がかけられ、玄関ドアやベランダは外からも鍵がかけられていた。ケータイに動画を飛ばす監視アプリや、盗撮用のメガネや腕時計で徹底監視。少女との会話をすべて文字に起こしたメモまで見つかった。

 誘拐の目的を「他人に独りぼっちの経験をさせて社会から隔離し、抑圧するとどうなるのか観察したかった。被験者は自分より弱い女子中高生とし、どうしたら発覚しないか考えた。(監禁後)どうするかは成長した段階で考えればいいと思った」と供述していたことも判明した。

 少女を洗脳するため、CIAの洗脳実験資料やオウム真理教の洗脳ビデオ、22年前に出版されて話題を呼んだ「完全失踪マニュアル」、新潟県三条市の少女誘拐監禁事件の資料なども研究。さらに、少女にアサガオの種から抽出したLSDに似た“手作りドラッグ”入りのジュースを飲ませ「君の両親が借金のかたに君の臓器を売買しようとした。捨てられたんだ」などと吹き込んだ。

 少女保護が報じられた際「なぜ少女は逃げ出さなかったのか」という声が出たが、少女が脱出を試みていたことも明かされた。誘拐から1か月後の2014年4月、寺内被告が不在のタイミングを見計らい、近所の公園で助けを求めようとした。

 少女の供述調書によると「小さな男児を連れた女性に『ちょっといいですか』と声をかけると『忙しいから無理』と話を聞いてもらえなかった。防犯パトロール車を見つけたが、すぐに行ってしまい、次に声をかけた高齢女性にも『無理です』と立ち去られてしまった。全く話を聞いてもらえず絶望した」という。

 その後、感情がなくなって涙も出なくなったが、両親が懸命に捜索していると知り、脱出の機会を慎重にうかがっていた。「(寺内被告が)3~5年で出てこらられるのは嫌です。一生出てこられない無期懲役刑にしてほしい」という少女の悲痛な訴えが読み上げられた。

 法曹関係者は、過去の判例から寺内被告の量刑について「小4女児を9年間にわたって監禁していた三条市の事件では懲役14年、小5女児を5日間監禁した事件では懲役6年6月の判決が、それぞれ言い渡されていることから、今回のケースでは、その間の懲役刑になるでしょう」とみている。

 誘拐された当時、中学1年生、13歳だった少女が2年間も監禁を強いられた恐怖から出た当然の言葉だったが、監禁犯に無期懲役刑が下される可能性は低い。

 法廷の寺内被告は少女の訴えを聞いても、小首をかしげて不思議そうな顔をするだけ。弁護側が主張する精神疾病・統合失調症を演じているのか。