親はどうすればよかったのか――。埼玉県東松山市の河川敷で23日、同県吉見町の井上翼さん(16)の遺体が砂利に埋まった状態で見つかった事件で、県警は26日、殺人容疑で新たに中学生3人を含む14~17歳の少年4人を逮捕。すでに出頭していた同市の無職少年(16)を含めて事件での逮捕者は計5人になった。同年代の子供を持つ親にしてみれば、背筋が凍る思いだ。この事件の背景にあるヤンキー文化の形成過程や、子供を非行から守る方法について専門家に聞いた。

 県警によると、新たに逮捕された4人のうち、3人が「殺しました」などと容疑を認め、1人が否認している。24日未明、父親に付き添われて東松山署に出頭した無職少年は「うそをついたり電話やメールを無視したりしたから殺した」と供述し、事件への関与を認めた。逮捕容疑は22日ごろ、同市下唐子の都幾川河川敷で井上さんを殺害した疑い。

 捜査関係者によると、県警は少年十数人をすでに事情聴取ずみ。「井上さんが暴行されるのを見た」との証言を得る一方で、仲間内でのかばい合いや供述のずれなども生じており、遺体の状況や死亡の経緯を詳しく調べる。

 逮捕された無職少年は地元の不良グループに所属。知人らによると、少年は赤い服に身を包み、十数人で公園や祭りに姿を見せる地元の少年グループに参加。このグループは駅などでほかの少年グループをにらみつけることもあったという。井上さんもこのグループに巻き込まれる中で、金銭トラブルなどを抱えるようになってしまった。

 このような不良グループがからんだ事件といえば、昨年2月に川崎市で発生した当時13歳の上村遼太さん殺害事件が思い出される。くしくも、上村さんも河川敷で泳がされたり暴行を受けた後、死に至った。

 10代が不良に憧れてしまう理由について、元警視庁刑事で犯罪学者の北芝健氏は「成長期特有の『世俗の規制への反発』から、自分の通う中高の卒業生や中退者の中でとびきり暴力的な人間に対して憧れを抱くようになる」と指摘する。

「そもそもヤンキーの組織は、上部団体である暴力団のコピー。手本があってマネているだけなので底は浅い。暴力団は存在を誇示するために舎弟をつくり、不良はパシリをつくる。井上さんもこの『支配と隷属』の関係に持ち込まれたのでしょう」(北芝氏)

 井上さんは昨年11月に県立高校を中退後、コンビニなどでのアルバイト生活に。最近は知人宅を泊まり歩く日々で、実家を空けることも多かった。知人には「夜遊びを心配する親が煩わしく家出した」と説明していた。

 井上さんの父親は事件後「大切な息子がこのようなことになってしまい、家族一同、今は大変動揺しており、深く悲しんでいます」とコメントを発表している。

 もし、自分の子供が不良グループと接点を持ってしまったら…。今回の事件を受けて、改めてそのような心配をした親も多いだろう。

「まず、親は警察や検察、司法といったものを信じないことが大事。子供を悪い仲間に入れない、もしくは引き出したいのなら、自力でなんとかするしかありません。悪い付き合いを始めたら、遠方に引っ越したり、海外の学校の寮に入れてしまったり。家庭内も地域も含めて環境は重要です」(同氏)。さらには次のような方法を提案する。

「子供が非行に走ったら、年上の精神的にも肉体的にも堅固な人間を付けると良いでしょう。空手など武術が強く、正しい精神を持った人間と行動をともにすれば、いい影響を受ける。そういう人間にお金を渡して、子供と食事やレクリエーションに行かせるんです。理想を言えば、子供が中学に入ったあたりで、地域の武術道場に入れるとグレずにすみます」(同氏)

 暴力的な欲求を持っているからこそ、強いものの存在は認めやすい。不良のそんな性質を利用し、「強い第三者」を雇って更生の道を進ませるのが良いという。

 いずれにせよ、遺族の無念を少しでも晴らすために、一日も早い事件の全容解明が待たれる。