フランス南部の高級リゾート地ニースで14日午後10時半ごろ(日本時間15日午前5時半ごろ)、「フランス革命記念日」を祝う花火の見物客の列にトラックが突っ込んだテロは、犠牲者84人という大惨事となった。フランスでは昨年11月に、130人が犠牲となったパリ同時多発テロが起きたばかり。バングラデシュ・ダッカ襲撃事件では日本人7人が犠牲になったが今後、大観衆が集まる夏のイベントも目白押しの日本でテロの危険はないのか? 専門家に聞いた。

 昨年11月のパリ同時多発テロを受け、発令していた非常事態宣言を「今月26日に解除する」とオランド大統領が発表した矢先の惨劇だった。花火の打ち上げが終わった直後に見物客らの列を目がけ、白いトラックが猛スピードで突っ込み約2キロ暴走。群衆に向けて運転手が発砲していたという目撃情報もある。

 死者84人、18人が重体となり、約50人が負傷。警察に射殺された運転手はニース在住のフランス系チュニジア人の男モハメド・ラフエジブフレル容疑者(31)。オランド大統領はテロと断定し、当局の対テロ部門が捜査に着手しているが、過激派組織「イスラム国」(IS)から犯行声明は出ていない。日本人の犠牲者は確認されていないという。

 青森中央学院大学の大泉光一教授(国際テロ対策)は事件の背景を「ISの構成員や、貧民街育ちの(ISに共鳴し自国でテロを起こす)ホームグロウンにとって、リゾート地で休暇を楽しむ人々は資本主義の快楽にふけっている攻撃対象。その上、民族的少数派にとって『革命記念日』やキリスト教のイベントには、疎外感を覚える。浮かれ気分の人々が大勢集まるイベント開催所が格好の標的になる」と解説する。

 民間人を狙うテロが目立つことには「テロリストは世界から注目を集めるために、いろんな国籍の外国人を巻き込むように実行場所を選んでいる。公官庁より、空港や外国人が多く利用するレストランやナイトクラブ、観光地が狙われやすい」と大泉氏。

 厳重警戒中のフランスであっても、爆弾を製造するなどの不穏な動きもなく、たった1台のトラックでテロを起こされ、それに全く打つ手がないことが証明されてしまった。

 日本でも同様のテロは起こり得るのか。いつ、どこが危ないのか。

「わざわざISが入国してテロを起こすことは考えにくいが、不法滞在者をネットを通じてリクルートし、資金援助をしながらテロリストを育てることは難しくない。当局も不法滞在者を正確に把握しきれていないため、危険人物としてリストアップできていない可能性もある」(大泉氏)

 日本では数万人が集まる野外音楽フェスやスポーツ競技場、お盆の時期などの公共交通機関の帰省ラッシュ、外国人観光客が多く訪れる観光地も危ないという。

「多国籍の被害者を出す目的がかない、自身も観光客になりすませる観光地は特に危険」という大泉教授は日本のテロ対策をこう指摘する。

「警察学校ではいまだに、ナイフを振り回している人物をさすまたで押さえつけるテロ対策訓練をしている。防犯カメラに過剰な信頼を寄せている人も多いが、あれは犯人を特定するためのものであり、事件やテロを防ぐものではない。どこでテロが起きても不思議でないという感覚を日本人も個人個人で持つべき」と警鐘を鳴らしている。