女性バレエ講師の指を切断した自称整体師の計算と誤算

2016年07月08日 07時15分

 おぞましさの中に“計算”と“誤算”があった――。東京・渋谷駅前のバレエスタジオで6日、女性バレエ講師(24)が元生徒の中年男に右手親指を切断された事件は、被害者が1人でいる時間帯を狙った計画的犯行とみられる。親指が切られたことは、狙いと外れた状況が生じた様子を物語る。警視庁渋谷署は、傷害容疑で同日に逮捕した住所不定無職、橋本浩明容疑者(41)の取り調べを進めて真相を解明する。

 百貨店やおしゃれな店が立ち並ぶ繁華街から少し離れた渋谷3丁目のバレエスタジオ。凶行を告げる110番通報が同所よりあったのは、6日午前8時40分ごろだった。

 男性の声で「女性の指を金づちと工具で切断した」。警視庁渋谷署員が駆けつけると、講師の女性が右手の親指を付け根から切断されて倒れていた。現場にいて「自分がやった」と犯行を認めたため逮捕されたのが橋本容疑者。女性は「馬乗りになって首を絞められ、失神した。気がついたら指を切断されていた」と話している。

 橋本容疑者は2014年にこのバレエスタジオに入会したが昨年9月、被害者の女性講師に対してレッスン中に暴言を吐いたり、物を叩いたりしたため、スタジオ側は同年10月に弁護士を通じて退会処分を通告。同容疑者は「退会は納得できない」とスタジオ経営者にメールを送り、スタジオ側は神奈川県警伊勢佐木署に相談していた。

 調べに対し「発表会に向けた練習の時間を教えてもらえないなど嫌がらせをされた」と供述。犯行については「6日は女性が1人でスタジオを開けることを知っていた。命に支障がないよう、指を狙った」。会員だった当時、毎週水曜日は女性がスタジオを開けることを知ったようだ。

 対象の行動を把握した上で行われた凶行は、おぞましさに加えて別の計画性もうかがわせる。捜査関係者が指摘する。

「犯行に使われたタガネという工具は、石や金属を加工する際に用いられるもの。女性を気絶させている間に親指の関節にタガネを入れて切断する手口は、残忍かつ人体の仕組みを知っていなければできない所業。なぜ親指なのかも不明で不気味だ」

 ナイフ類や、木材を削ったりする際に使われるノミではなく、より硬い材料向けのタガネを使用したのは、犯行への強い意思を感じさせる。指を切断したのは、「命に支障がないよう」との“配慮”からとも供述。しかし、親指になったのは狙い通りではなかったようだ。

 一部報道によると、橋本容疑者は「小指を切るつもりだったが、薬指も切れてしまうので親指にした」とも供述しているという。自称整体師とも言われており、人体の仕組みや機能に知識を有していた可能性もある。命を奪わぬ範囲内で計算して選んだ狙い場所が小指だったが、“想定外”の状況から薬指も巻き込むリスクが生じ、親指に変えたとも考えられる。

 そんな橋本容疑者のプライベートは謎に包まれていた。以前、住んでいたという家は交通量の多い道路沿いにある借家。近隣住民は「町内会にも所属しておらず、顔すら全然知りません」と話した。近くのコンビニや飲食店、ドラッグストア、また、駅近くの個室ビデオや居酒屋などでも目撃者はいなかった。

 近年、国際コンクールにおける入賞、名門バレエ団でトップランクに選ばれるなど、日本人バレエダンサーの活躍を伝えるニュースが続く。国内でもバレエへの関心が高まる中、とんでもない事件が起きた。