旧日本軍の従軍慰安婦問題に関する研究書「帝国の慰安婦」で、元慰安婦の女性らの名誉を毀損したとして、韓国検察が在宅起訴した著者の朴裕河・世宗大教授が2日、ソウルで記者会見を開いた。席上「検察の非人権的な捜査と起訴に強く抗議する」と語った朴氏。韓国は言論、思想の自由がないことを自ら世界に示した形だ。

 朴氏に続き、韓国の有識者らも会見し、賛同者約190人による検察への抗議声明を発表した。朴氏は「帝国の――」で、慰安婦制度を日本の帝国主義に起因する構造的な問題として指摘したが、ソウル東部地検は11月、慰安婦と日本軍が「同志的関係にあった」などとの一部表現を「虚偽事実」「学問の自由を逸脱した」として朴氏を名誉毀損罪で在宅起訴。14日に初公判が開かれる。

 朴氏は「慰安婦について、日本の否定論者が『売春婦』と呼び、韓国の支援団体は『無垢(むく)な少女』のイメージのみに執着し、対立が続いた歳月を検証することなどが同書の目的だ。重要なのは国家の利益のため遠く故郷を離れた場所に移動させられた苦痛と、身体を傷つけられた事実だ」と説明。そのうえで、韓国側が「日本という政治共同体(政府)のみを罪と責任の対象と見なしている」と批判した。

 有識者らは記者会見で「思想と表現の自由を守る市民と共に、事態を深く懸念する」などとする抗議声明を発表。延世大の金哲教授(韓国文学)は「慰安婦問題の公式な物語を揺るがす声を国家の力で統制しようとする試みだ」と起訴を批判し、他の識者も、韓国では同問題で「少女の拉致・連行」との定着した見方に異論を唱えることが難しいとの現状を訴えた。

 一方、別の有識者ら少なくとも70人も2日、声明を発表し、同書は「公平性などで多くの問題がある」と批判、朴氏を支持する有識者らに公開討論を申し込んだ。

 元公安調査庁第2部長・菅沼光弘氏の著書「ヤクザと妓生が作った大韓民国」でインタビュー・構成を担当した但馬オサム氏はこうみている。

「朴教授の著書は、地道な調査に裏付けされた客観的な報告を述べているにすぎません。教授は、そういった戦地売春業が必要とされたのも、日韓併合によるもので、日本には道義的責任があるとも記しており、彼女が決して日本の保守層の論調に迎合しているわけではありません」

 その朴教授が起訴されるのだから、韓国には言論、思想の自由がないことを自ら示したといっても過言ではないだろう。

「2004年頃、やはり『慰安婦=戦時売春婦』説を唱えたソウル大の李栄薫教授が元慰安婦たちの前で土下座を強要させられる“事件”がありました。韓国では反日は、歴史問題や政治問題を超えて一種の“信仰”となっています。そのなかで、元慰安婦は殉教者、聖人の位置にあります。韓国では慰安婦=売春婦説を説くものは、異端あるいは魔女として社会から抹殺されるしかありません」と但馬氏は指摘している。