1995年の東京都庁小包爆発事件で、殺人未遂と爆発物取締罰則違反の各ほう助罪に問われたオウム真理教の元信者菊地直子被告(43)の控訴審判決が27日、東京高裁(大島隆明裁判長)で開かれ、懲役5年の一審判決を覆す逆転無罪となった。


 昨年6月の原審(裁判員裁判)では「爆薬を見せると菊地が『頑張ります』と応じた」という井上嘉浩死刑囚(45)の証言が有罪判決の根拠となったが、大島裁判長は「井上死刑囚の証言は不自然に具体的で信用性がない」と却下した。


 警察庁が1000万円もの懸賞金をかけた特別指名手配犯が、なぜ無罪になったのだろうか。オウム問題に詳しい紀藤正樹弁護士は「事件の風化が招いた“逃げ得”ともいえる後味の悪い判決。真実の解明が重要な刑事裁判で、17年もの逃亡によって真相を解明できない悲劇を感じた」と指摘した。


 裁判員裁判の証拠整理に問題があるとも。「裁判員の拘束を短くするために、裁判員裁判では有罪無罪の認定に直接関わらない証拠の提出が制限されます。有罪の場合は問題にならないが、膨大な税金を使って捜査して無罪なら『なぜ逃げたのか』が問題になるが、それが解明されないのです」


 菊地被告は「地下鉄サリン事件」「VX事件」「都庁小包爆発事件」の3つに関わった容疑で特別指名手配され、逮捕されたが、実際に起訴されたのは「小包爆発事件」だけだった。


 警察、検察側は証拠保存にも問題があり、今回は自分たちの首を絞める結果になったともいえる。「特別指名手配した時点では警察は証拠を持っていたはずだが、17年の間に証拠が散逸してしまったのです。証人らも記憶があいまいで、実刑を終えた証人が有罪方向で証言するわけがない。初期の証言を録音テープなどに残して保存しておくべきだった」(紀藤氏)


 菊地元信者は同日、釈放された。逆転無罪で赤っ恥をかいた検察側の上告は必至だ。


【ひかりの輪・上祐史浩代表の話】

「今回の無罪判決は、井上死刑囚の証言の信頼性を否定したものだと思いますが、私の知る教団の実態からも彼の証言は信頼できず、その意味で妥当だと思います。他の逃亡者の判決の影響の有無は、同じように井上証言が関わっているかどうかでは。なお、ひかりの輪と彼女は今後とも無関係です」