まさかの「トルコ謀略説」――。パリ同時多発テロ、エジプトでのロシア旅客機墜落でフランス、ロシアがイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆作戦を展開する中、24日にトルコ軍が、領空侵犯したとしてロシア機を撃墜し緊張状態に陥り、世界中が注目している。IS掃討への共同戦線の足並みが崩れる事態で、“アクシデント説”や“ロシア陰謀説”などが飛び交うが、専門家はトルコの策略のにおいがすると指摘している。

 トルコ軍機に撃墜されたロシア空軍のパイロットで生存した1人は、ロシアメディアの前で、トルコを領空侵犯した事実はなく、トルコ軍からの警告も一切なかったと主張。プーチン大統領(63)はトルコに対し「依然として謝罪がなく、補償の申し出もない」と怒りを口にした。報復としてトルコ企業のロシアでの活動禁止などを含む経済制裁を発動する方針だ。

 一方、トルコ軍は撃墜する直前に警告を伝える無線の録音記録を公開し、ロシア側の主張は誤りだとしている。互いの誤認による偶発的な撃墜となった可能性はもちろんだが、この手の衝突は高度な“政治判断”が裏で働いたのは、歴史が証明してきた。

 シリアのアサド政権を支持するプーチン大統領はIS掃討で、シリアを支配下に置くことで、“地中海利権”を握りたい意向が見え隠れする。そのため、今回の領空侵犯もあえて、反アサド政権派のトルコ側を刺激し、撃墜されるように仕掛けたとの見方も出ていた。

 26日に都内で行われた新党大地の大地塾で、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は次のように指摘した。

「ここまで双方の主張が対立するのは珍しい。どちらかがウソをついていることでもあるが、(この対立で)ロシアが得をする部分はないと思う。そう考えると、IS掃討でロシア、フランス、イランの3か国が結びつくことを良しとしないトルコ側に謀略のにおいがする」

 そもそもロシアはISの資金源となっているトルクメン人の石油密売ルートを空爆していた。パリ同時多発テロ事件の発生以降、フランスがIS掃討の目的の下、ロシアに近づいてきた。26日夜(日本時間27日)には、モスクワのクレムリンでプーチン大統領とフランスのオランド大統領(61)が会談。ともにテロ組織掃討に向けた大連合形成の必要性を訴えるなど、改めて共闘を確認した。

 しかし、フランスとロシアに手を組まれて面白くないのがトルコだという。ロシアとイランはIS掃討のためにはアサド政権を維持した方が良いと考えているが、トルコは米欧と歩調を合わせた反アサド政権で、IS掃討よりもアサド政権を支援するイランやエルドアン政権と対立するクルド人の勢力をそごうと動いてきた。

「NATO加盟国であるトルコがロシアとの対立を鮮明化させることで、同じくNATO加盟国のフランスがロシアに接近するのを防ごうとしているのでは」(佐藤氏)

 要するにロシア主導で進みつつあったIS掃討作戦をけん制するために、あえてロシア機撃墜という強硬策に踏み切ったというわけだ。

 各国の思惑が入り乱れる複雑な状況下で、今後は何が起きてもおかしくない。フランスやベルギーではISのテロを警戒し、あたかも戦時下のような状態に置かれているが、ロシアとトルコの間で新たな火花が発生すれば、ISそっちのけで、欧州が内戦状態に陥ることは間違いない。