「イスラム国」(IS)が犯行声明を出したパリ同時多発テロを受けて、国際ハッカー集団「アノニマス」が17日までに宣戦布告を行った。アノニマスは動画投稿サイト「ユーチューブ」を通して、「戦争は宣言された」とISに対して大規模なサイバー攻撃を加えると予告した。自爆テロや人質殺害などリアルな世界で暴力行為を行うISに対し、サイバー攻撃がどこまで効果を持つのか。専門家は「ISの本拠地やメンバーの名前、さらに資金源を暴こうというのではないか」と指摘する。

 動画が投稿されたのは14日。アノニマスを象徴する仮面をかぶった人物がフランス語で「戦争は宣言された。準備も整っている。世界中からアノニマスがお前たちを捕らえるだろう。お前を見つけ、放しはしない」と宣戦布告。大規模なサイバー攻撃を仕掛けると予告した。

 ISへの報復攻撃はリアルな空間でも激化している。フランスメディアによると、原子力空母「シャルル・ドゴール」がペルシャ湾に向け出発するという。さらに、ロシアのプーチン大統領は10月にエジプト・シナイ半島で起きたロシア機墜落はテロ攻撃によるものと断定。シリアへの空爆を強化する方針と伝えられている。

 現実世界で暴力が暴力を呼び起こす連鎖の中、サイバー空間でアノニマスに何ができるというのか。ITジャーナリストの井上トシユキ氏は「シャルリー・エブド襲撃事件のときに、アノニマスはIS関係者のツイッターを閉鎖に追い込んでいます。今回はそのとき得た情報を踏まえて、ISが持つコンピューターに侵入しようとするのではないか」と指摘する。

 SNSを巧みに利用するISは最近、ツイッターやフェイスブックの利用は控えるようになっている。とはいえ、犯行声明にユーチューブを使うなどネット環境は保持している。また、ロイター通信によると、ISが英国に対してサイバー攻撃を予定しており、英国が対策強化に動いているとも。アノニマスがサイバー空間でISに対抗する余地は残されている。

「コンピューターに侵入することで、ISの本拠地や(リーダー的存在の)バグダディ容疑者の居場所を突き止めることができるかもしれない。特定できれば暴露するはずです。他にもISのメンバーの名前やISに資金提供している国や勢力、人物の情報を暴露するという手もある」(井上氏)

 宣戦布告動画の「お前を見つける」という言葉はこのような意味かもしれない。

 なぜアノニマスはISと敵対するのか。アノニマスは過去に武装勢力と戦ったことがある。2011年、メキシコの麻薬組織「セタス」にアノニマス関係者が捕まったことがあった。これに対し、アノニマスは「仲間を解放しないと、セタスの機密情報をバラす」と宣言。結果、仲間は解放された。

「メキシコのときは仲間の解放という目的がありました。ISへの攻撃は意外な感じも受けますが、彼らは基本的にネット上の自由な情報の流通や言論の自由を妨害する勢力に反対しています。ISをそれらの勢力と認識しているのでしょう。アノニマス内部の政治的信条を持つ人物ら一部が報復行動を主導しているのではないか」(同)

 ネット上ではアノニマスのサイバー攻撃に期待する声も見受けられる。しかし、心配もある。「かつて日本に攻撃を仕掛けたとき、霞が関と霞ヶ浦を間違える“誤爆”をしています。うまくいくかはふたを開けてみないと分からない」(同)。確かに言語の壁は大きい。

 アノニマスはISのテロを防ぐことができるか。