約130人の死者、同350人の負傷者が出たパリの同時多発テロから2日が過ぎた15日夜(日本時間16日未明)、安倍晋三首相(61)と英国のデービッド・キャメロン首相(49)は20か国・地域(G20)首脳会合が行われているトルコ南部のアンタルヤで会談し、同時テロを踏まえ「共にテロと戦う」との認識で一致した。この事件、日本にとって対岸の火事ではない。

 フランスのメディアは15日、病院当局の集計として死者が132人、負傷者が349人になったと伝えた。テロ後初の日曜日となったこの日、パリの観光名所は軒並み休業した。人影のまばらなルーブル美術館やエッフェル塔では、迷彩服姿のフランス軍兵士が物々しい雰囲気で警戒。華やかな街は異様な緊迫感に包まれていた。

 G20首脳会合に集まった各国首脳からは「われわれが共有する価値への挑戦。国際社会が一致して非難すべきだ」(安倍首相)、「フランスと連帯して実行者を捕まえ、裁きを下す」(バラク・オバマ米大統領)など怒りの声が相次いだ。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出したむごたらしい同時多発テロ。フランス警察は同日、容疑者の1人としてベルギー在住のフランス人アブデスラム・サラ容疑者(26)の顔写真を公開した。生死や役割は不明。同検察当局によると実行犯は3班に分かれていた。現場では7人の実行犯が死亡しており、サラ容疑者を含めて4人の身元が特定された。

 日本でもテロを受けて東京・渋谷にフランス人らが集まり、犠牲者を追悼。同国のオランド大統領は「ISが国内にいる協力者の支援を得て行った犯行だ」と断言。世界各国がISへの怒りを強めた。同国国防省はIS掃討のため、シリア北部ラッカで空爆を実施したと15日に発表した。

 ISは日本人をターゲットにすると表明したことがあるが、日本でテロの可能性はあるのか。公安関係者は「高くはないが可能性はある」との見方を示す。「日本ではフランスと違って、移民が不満を抱いて過激派になって起こす“ホーム・グロウン・テロ”は考えづらい。テロがあるなら過激派が入国してくるでしょう」

 サラ容疑者のほかに、80人以上が死亡したバタクラン劇場に立てこもったイスマイル・モステファイ容疑者(29)もフランス人だったと地元メディアが伝えた。移民やイスラム教徒が多いパリ郊外クルクロンヌ出身で、イスラム過激派リストに掲載され、当局の監視を受けていた。これがホーム・グロウン・テロリストだ。

「フランスと比べ、日本では武器調達も容易ではない。シリアへの空爆に直接参加しているわけでもありません。現状、日本国内の過激派寄りの人物らがテロに乗じて動く気配も把握していません」(前出公安関係者)

 ほとんど可能性がないように聞こえるが、来年になると事情が変わる。「5月に三重県で伊勢志摩サミットが開催されます。10年前に英国でサミットが行われたときはロンドン同時多発テロが起きています」(同)。当時、地下鉄やバスが爆破され、56人が死亡。のちにアルカイダが犯行を認めている。

「国際的に注目度の高いサミットはテロ組織にとって自分たちの主張を訴える格好の舞台。日本でテロがあるとしたら、このタイミングを狙ってくるでしょう」(同)。河野太郎国家公安委員長(52)も「来年はサミットがあるので万全の対策をとってまいりたい」と話した。日本だけが安全とはいえなくなってきた。