被害者はBPD(ボーダーライン・パーソナリティー障害)だった!? 三重県松阪市の高校3年波田泉有(はだ・みう)さん(18)が、同県伊勢市にある虎尾山で同級生の男子生徒に刺殺された事件は、男子生徒の供述、波田さんの遺体の状況から嘱託殺人の可能性が高まっている。だが、全容は謎のままだ。専門家は、理解困難な2人の関係性については「思春期特有の友情を超えてしまった感情があったようだ」と分析した。

「波田さんに殺害を頼まれた」と供述する容疑者の男子生徒は、9月28日の朝、自宅にあった包丁をかばんに入れて登校。下校後に波田さんと一緒に殺害現場となった伊勢市内の虎尾山に向かい、頼まれるがままに「あおむけ状態の波田さんの左胸を上から包丁でひと突きにして殺害した」という趣旨の供述をしている。波田さんの遺体に防御創がないこと、ひと突きで心臓まで達する15センチもの傷を負っていることからも波田さんが抵抗したとは考えにくく、また本人に自殺願望があったということからも嘱託殺人の可能性が高まっている。

 実際、波田さんを知る生徒は「クセになっていたみたいで、腕には無数のリストカットの痕があった」と証言する。

 また他の生徒は「何かの拍子に発作的に落ち込んで自己否定をしたりするので、その都度、みんなが励ましていた。落ち込んでしまったときは、近くにいる男子生徒に抱きついて心が落ち着くまでじっとしていることもあった」と話す。そんなとき、その場にいた容疑者の男子生徒の1つ年下の彼女が不機嫌になることもあったという。だが、次の日になると波田さんは何事もなかったかのように振る舞っていたようだ。

 母子家庭での苦労はあっただろうが演劇部に所属し後輩の面倒をよくみて、体育祭にも前向きだった波田さんがなぜ自殺願望を抱いたのか、その理由がわからない。

 銀座泰明クリニック院長の茅野分氏(精神科・心療内科)は「波田さんはボーダーライン・パーソナリティー(障害=BPD)の持ち主で、自我が脆弱だった可能性がある。見捨てられるかもしれないという不安と常に闘いながら自殺願望もあり、“生きたい”と“死にたい”とが同居していたのではないか」と分析する。

 BPDとは「しがみつき」「見捨てられ不安」とも呼ばれ、乳児が親に求めるような無償の愛を相手に求め、目を離すと赤ちゃんのように泣きじゃくり、リストカットなどの衝動行為が見られることがあるというもの。

 また、理解困難なのは依頼を受けたからと言って殺してしまった男子生徒だ。2人はいったいどんな関係だったのか?

 茅野院長は「2人の間には、“友情を超えた愛情”があったのではないか。『思春期心性』という思春期特有のもので、大人には分かりえない部分。男子生徒は一気に気持ちが高まり、波田さんの依頼を受けるままに刺した可能性がある」と話す。

 2人が通う高校が開いた9月30日の会見では、2人は親友関係にあったとされたが、一方で茅野院長の指摘どおり「親友というよりは、一歩進んだ関係だった」と見る生徒も少なくない。

 実際、2人は2年生のときに同じクラスだったが、3年生になってクラスが分かれてからも一緒に昼食を食べる姿が頻繁に目撃されており、ただの親友というには疑問が残る。

 この男子生徒は6人きょうだいの2番目。兄と弟3人、妹が1人いる。5~6年前に家族と伊勢市内に引っ越してきた。近所に住む70代の女性は「家族の仲は良さそうでした。服はちゃんとしてたし、会えば必ずあいさつをするきちんとした子。分別のない子ではない」と、事件を不思議がる。

 いまどきにしては珍しく、七夕の飾りやクリスマスツリーを家の前に飾って家族みんなでお祝いし、きょうだいの誰かの運動会ともなれば、家族みんなで応援に駆けつける。男子生徒自身も弟の面倒をよく見るなど、家庭では優等生だったという。

 きょうだいの面倒をよく見て家族との仲も良かった心優しかった男子生徒と、精神的に波がありながら誰かを支えに必死に毎日を生きていた波田さん。

 そんな2人に友情を超えた愛情が芽生えていたのなら、普通ではありえない嘱託殺人が成立したとしてもおかしくはないのかもしれない。