川崎市幸区の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で昨年、高齢の入所者3人が相次いで個室のベランダから転落死していたことが分かった。施設は市に事故として報告したが、神奈川県警は事件の可能性も視野に入れて調べている。事故死か、自殺か、他殺か。果たして老人ホームに入居している老人がベランダの手すりを乗り越え、落下することがあり得るのだろうか…。

 昨年11月4日から12月31日のわずか2か月の短期間に、87歳男性、86歳女性、96歳女性が、いずれも午前1時から4時ごろとみられる時間帯に自室のベランダから転落し、搬送先の病院で死亡した。

 同施設は部屋数80で障害者や認知症患者も入所しているが夜間は原則、職員3人で対応していた。運営会社によると、転落のあったいずれの日も夜間勤務に入っていた職員もいた。いずれのケースも夜間巡回中の職員が窓が開いていたことから発見し119番通報した。運営会社は、部屋の状況などから「転落は事故と認識している」と説明。「重く受け止め、二度と起きないよう対策に努める」としている。
 各部屋のベランダには高さ120センチの手すりが設置してあり、後期高齢者3人が自力で手すりを乗り越えられるものなのか疑問だが、“事故死”の可能性がないとは言い切れないという。

 老人ホーム勤務者は「午前1時から午前4時は夢の延長で寝ぼけながらトイレに行くことが多い時間帯です。認知症だと昼夜逆転もあります。トイレに行こうとしたつもりでベランダへの窓を開けてしまい、つまずいて推進力が出たところに、たまたま植木鉢やダンボールなどが踏み台のようになり、空中に頭から突っ込んでしまう可能性はあります。足腰が弱く、反射神経もない老人の場合、健康な人が考えつかない転び方をするんです」と語る。

 健常者のように力があればつまずいて前進する勢いを止めようとしたり、転倒の際にベランダをつかんだりして落下を免れることができる。老人が自分の意思で腕力と脚力を使って、手すりを乗り越える力はないようだ。しかし足腰が弱い老人だからこそ、つまずいて生じた前進力に逆らえず、勢いづいて落下することがあり得るのだという。

 逆に老人には思いがけない力があることも。「認知症の老人で病的にパワーを発揮し、塀をよじ登って脱出した事例もあります。その方の場合、『閉じ込められているから脱出しなくては!』と、戦時体験の記憶が妄想と脳内で融合して、バカ力が出たようです」(同)

 さらに老人ホームでは健康問題を苦に自殺する人がいるほか、職員の虐待や入所者同士のいじめなど対人関係を苦に自殺するケースもあるという。

 また老人ホームでの入居者虐待のニュースも後を絶たない。2011年には香川県の老人ホームで認知症の入所者をペット用の鉄柵に閉じ込めたり、重さ7キロのバーベルにつなぐなどの虐待が長年行われていたことが発覚した。

 今年3月に名古屋の介護施設で、男性職員3人が認知症の女性入居者(90代)に暴行を加え、嫌がる様子をケータイで撮影し動画をLINEで共有する卑劣な虐待を行っていたことが判明。

 5月にも広島の介護施設で、何らかの原因で転落した女性(80代)を放置して死なせた保護責任者遺棄容疑で介護福祉士が逮捕された。

 今回、職員の関与は明らかでないが、同施設の運営会社の求人は「年間20拠点の新規開設を予定し、介護業界で急成長を続けている」とうたっている。

 先の老人ホーム勤務者は「そもそも80室を3人で夜勤というのは厳しいですね。通常、夜勤で1人が見る最大人数は10人ぐらいが妥当とされていますから、見守りきれないかもしれないです」と指摘する。

 施設ばかりできても、慢性的な人手不足では仕方がない。2か月の短期間に3人が転落するという不審死の原因究明が待たれる。