「酒鬼薔薇聖斗」いまだ自己愛障害 遺族感情を逆撫でしてまで手記出版

2015年06月12日 06時00分

 1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件の犯人・元少年A(32)が、事件を起こすに至った経緯や社会復帰後の生活、遺族への謝罪や現在の心境などをつづった手記「絶歌」(太田出版)を10日に刊行し、波紋を広げている。出版を聞かされていなかった被害者の遺族は怒り心頭。出版差し止めを求める声を上げているが、遺族感情を逆なでしてまで手記を出した元少年Aの心理状態を専門家が分析した。

 Aは14歳だった97年、神戸市須磨区で小学生5人を襲い、4年の山下彩花ちゃん(10=当時)と6年の土師淳君(11=当時)を殺害、3人を負傷させ兵庫県警に逮捕された。バラバラにした遺体の一部と「酒鬼薔薇聖斗」を名乗る犯行声明文を中学校正門に置く猟奇的犯行で世間を震撼させた。

 その後05年に医療少年院を本退院し、社会復帰した。

 出版社の担当者によると、Aが仲介者を通じて、数年かけてまとめた草稿を今年3月に同社に持ち込み、実際に面会して出版が決まったという。初版は10万部。著者名は「元少年A」で、タイトルページの裏面にはAが1枚だけ持っていた祖母に抱きかかえられた3歳のころの写真が掲載されている。同書で少年は「死ぬまで誰にも話さないつもりだった」という最初の性衝動の話をしており、非常に衝撃的だ。Aは「“性”と“死”が“罪悪感”という接着剤で結合した瞬間」と記している。祖母の死後、押し入れから愛用の電気マッサージ器を見つけたA。

「祖母の位牌の前で、祖母の遺影に見つめられながら、祖母の愛用していた遺品で、祖母のことを思いながら、精通を経験した」というのだ。

 ほかに核心部分となる動物虐待や連続殺傷事件の記憶、関東医療少年院を仮退院後の更生保護施設や社会復帰について振り返り、巻末では被害者や遺族への思いもつづっている。

 担当者は「(世間話などはなく)原稿に関する話のみした。こちらが勝手に手を入れられるような原稿ではないので、修正点はすべて彼に相談して、彼自身に直してもらった」と語る。

 Aは巻末で「被害者のご家族の皆様へ」として「皆様に無断でこのような本を出版することになったことを、深くお詫び申し上げます」と謝罪。出版の理由を「自分の過去と対峙し、切り結び、それを書くことが、僕に残された唯一の自己救済であり、たったひとつの『生きる道』」と説明している。

 だが淳君の父親、土師守さんは10日、弁護士を通じて「もし、少しでも遺族に対して悪いことをしたという気持ちがあるのなら、今すぐに、出版を中止し、本を回収してほしいと思っています」などとするコメントを発表した。

 わびていながら出版、結局は遺族感情よりも自分が優先なのだろうか。銀座泰明クリニックの茅野分院長(精神科・心療内科)はこう分析する。

「彼はいまだ自己愛性パーソナリティー障害を抱えている可能性がある。遺族に無断で本を出版する行為から、自分勝手な価値観で殺人を犯したころの根底にあった自己愛が今でも強く見られる」

 出版社の担当者は「少年事件の加害者が、なぜ罪を犯し、どう生きていくのか、どう償うのかを自分の言葉でここまで克明に書いた本はない。今後、少年事件が起きた際にも基礎文献になるような貴重な資料だと考えている。当然、印税はAの手に渡るが、本人の意向で行うことなので当社から『遺族への償いに当ててほしい』などと言うことはない」としている。