イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)に湯川遥菜さんとジャーナリストの後藤健二さんが拘束、殺害された事件で政府は21日、検証委員会による検証結果報告書を公表した。政府対応に誤りはなかったとの自画自賛の内容に「ごまかし」との批判が飛んでいる。

 検証委員会は杉田和博官房副長官を委員長に据え、官邸や外務省、警察庁、防衛省幹部が委員を務め、元外交官の宮家邦彦立命館大学教授や田中浩一郎中東研究センター長ら5人が外部有識者を務めた。有識者が情報収集の強化などの改善点を指摘しているが、政府の対応は終始適切だったとの構成だ。

 だが、イスラムに詳しいジャーナリストの常岡浩介氏は「政府にとって、都合の悪いところが一切、触れられていない」と指摘する。

 報告書では、昨年8月に湯川さんの行方不明が判明してからの政府内の情報収集・分析について「あらゆるチャンネルを活用して、情報収集及び働きかけを行った。(中略)幅広く情報収集に努めたものの、この期間を通じて、犯行の主体等について断定するには至らなかった」と結論付けている。

「湯川さんの拘束後、ISは公開裁判を行うとして、私と中田先生(考=元同志社大教授)に通訳と立会人を求めてきた。中田先生はこのとき、外務省に事情説明して(外務省は)事実を知っていたにもかかわらず、今回全く触れられていない」(常岡氏)

 ISの犯行と特定できたうえに交渉・解放するチャンスがあったにもかかわらず、全く言及していないのだ。

「その後に北大生の私戦予備・陰謀容疑での事情聴取で、私も機材やパスポートが押収され、湯川さんを救出するチャンスを失った。湯川さんが救出されていれば、後藤さんがシリアに行くこともなかった。(IS側との交渉の)重要な事実に触れていなければ検証になっていない」(常岡氏)

 報告書は最後のまとめで、有識者からの指摘として「民間の個人や団体の有する情報をより積極的に聴取し、対処策に生かす手法も、今後検討されるべきとの意見も示された」との“反省”の一文がアリバイ的に盛り込まれただけだった。