首相官邸にドローンを飛ばし、威力業務妨害の疑いで逮捕された無職山本泰雄容疑者(40)は、自身のブログで原発施設への侵入やロケット弾での爆破といった戦慄のシミュレーションまでも披露していた。もしも原発襲撃計画が実行に移されていれば、原発は官邸に侵入を許したドローンのように脆弱な警備体制を露呈したのか? 専門家に聞いた。

「テロ対策強化メニューを組んだのか。忍び返しが両側に…。有刺鉄線も螺旋タイプが追加。高さは変わらず。まあ入ろうと思えば入れる」(原文まま)。昨年10月に鹿児島・川内原発を訪れた山本容疑者は、周辺調査後にブログにこう記していた。

 有刺鉄線の鉄条網で覆われ、防犯カメラも並ぶ厳戒な警備体制にも「最悪、車両横付けでルーフから脚立で飛ぶ」。防犯カメラからは逃れられなくても侵入可能と判断し、施設内に入った後に壁をよじ登る目的とみられる忍者のようなカギ縄を使った訓練も公開していた。

 さらに“原発無双”なる4文字にも言及。

“無双”とはゲームに由来する1人で複数人をなぎ倒す大立ち回りで、山本容疑者は秋葉原殺傷事件時のナイフの使い方を解説している。原発内へ侵入後に警備に当たる機動隊員を相手にする“無双”をイメージしていたのか。

 福島原発の事故後、原発の警備体制の不安が指摘され、国会でもたびたび論議されてきた。

 軍事評論家の神浦元彰氏は「元自衛隊の山本容疑者は、フェンスを乗り越える訓練も行っているので、侵入はさして難しいと思っていなかったのでしょう。ただ原発施設は非常に高度な電子警備システムが敷かれ、監視カメラ、フェンスを越えたとしてもすぐに防犯用レーザーで感知される。中に侵入したとしても警戒エリアごとにドアのロックがかかる仕組みですぐに閉じ込められる」と指摘する。

 同容疑者は福井・高浜原発の原子炉建屋が公道から望めるロケーションにあることにも触れ「撃てば当たる距離。RPG弾頭何発まで耐えられるのか」とRPG(対戦車ロケット弾)による原発の直接破壊をシミュレーションしている。

 日本では、対戦車ロケット弾自体が、見慣れぬ武器だが、暴力団から押収されたこともある。神浦氏は「RPGはロシアや中国、東南アジアなどの闇ルートから手に入れることはできる」としながらも「原子炉建屋は外から狙われる想定で設計され、RPGを10数発撃ち込まれても耐えられる防護壁を持っている」と解説。仮に数発撃ち込んだとしても取り押さえられるのがオチだという。

「山本容疑者はこうやれば面白いとの想像というか妄想がすごいが、現実をほとんど知らない。(原発施設への侵入・破壊は)万が一でも成功する可能性はない」(神浦氏)

 同容疑者は原発の再稼働阻止に向け、さまざまな工作を練っていたが、「革命的で高度な破壊活動と無差別なテロリズムの間には明確な区別がなされねばならない」と信奉するキューバの革命家チェ・ゲバラの言葉を引用し、自身の行動に逡巡(しゅんじゅん)していた。結局、無謀な原発テロ行為に及ぶことはなかった。