シリア渡航計画でパスポート強制返納させられたカメラマンを直撃

2015年02月11日 11時00分

 やり過ぎなのか。外務省にパスポートを強制返納させられた新潟県在住のフリーカメラマン、杉本祐一氏(58)が本紙に怒りを激白した。杉本氏は地元紙などで、今月27日からシリアへ取材に行くと表明していた。外務省は旅券法を根拠に、逮捕をちらつかせて、パスポートの返納を迫っていた。杉本氏は「取材の自由や渡航の自由を奪われたと認識しています。これは政府による見せしめですよ」と憤った。

 イスラム過激派「イスラム国」による、湯川遥菜さん(42)とフリージャーナリストの後藤健二さん(47)の人質殺害に日本政府はピリピリしていた。4日付新潟日報で杉本氏のシリア渡航の意思が明らかになると、政府はすぐに内容を把握。「杉本とは何者だ」と情報収集していた。人質事件の再発を未然に防ぎたいわけだ。

 直後に杉本氏へ外務省から「新聞読みました。行かないでください」と電話があった。さらに、地元新潟県警の関係者が会いに来て、「行かないでくれ」と頼みにも来た。そして、7日夜、杉本氏の自宅に外務省領事局旅券課の職員2人と警察官とおぼしき人物がやって来た。

「職員が旅券の強制返納の命令書を読み上げました。『渡せ』『渡さない』のやりとりの中で、職員は『渡さないなら逮捕もある』と2、3回言いました」と杉本氏は振り返る。約45分の押し問答の末、杉本氏は「強制返納に応じなくても、逮捕となったらパスポートを取られるのは同じだ」と判断。最終的に強制返納に応じた。

 外務省の主張の根拠は旅券法だ。同法第19条に「旅券の名義人の生命、身体又は財産の保護のために渡航を中止させる必要があると認められる場合」に、外務大臣または領事官は返納を命じることができるとある。シリアに行けば、また日本人人質となりかねないとの判断があったとみられる。生命の保護を理由に返納を求めるのは初めてのケースという。

 杉本氏が初めてシリア入りを明らかにしたのは、全国紙の地方版だった。「本当は静かに行って帰ってきたかったのですが、あくまで地方版だからと言われて話しました。その後、新潟日報でも取材したいということで話しました」(同)。27日にトルコ・イスタンブールを目指して飛び立つ予定だった。

「昨年11月に(シリア北部の)コバニで取材していたのでその続きと、難民キャンプの取材。また、捕虜交換の場所にもなるアクチャカレにも行きたいなと。計画は人質事件の前からしていました。危険と言われますが、ガードマンがつく。トルコのキリスから(同)アレッポまで日帰りで取材する予定で、これも安全の秘訣です」(同)。1週間から10日間の予定だった。

 杉本氏は1994年からカメラマンとなり、アフガニスタンやパレスチナといった紛争地の取材を続けてきた。このままでは取材もままならない。

「外務省の職員は永久に返さないみたいなことを言っていた。行政不服審査法に基づく異議申し立てか、行政事件訴訟法で処分取り消しを求めるかができるそうです。返納命令の無効判決が出ればパスポートは戻ってきます」(同)

 今後、弁護士などに相談して、どのような対応が最善かを考えるという。
 取材した成果は動画投稿サイト「ユーチューブ」や講演において発表する予定だった。「表現の自由、取材の自由、渡航の自由を奪われたという認識です。これは政府による見せしめです。一番弱いところに打撃を与えようとしている。『お前も杉本みたいになるぞ』というシグナルですよ」(同)

 渡航の自由は憲法で保障されているだけに、今回の外務省の判断は賛否両論巻き起こすことが予想される。

 一方で、人質事件の直後というタイミングにはネットなどで“KY”(空気読めない)との声も上がっている。政府関係者は「ほかにもシリアに行きたがっているジャーナリストがいないか調べています」と言い、旅券返納が今後も続きかねない。