【イスラム国・日本人人質事件】得体のしれない「イスラム国」との交渉は、困難を極めた。

 先月20日に突然インターネット上で湯川遥菜さん(42)とジャーナリスト後藤健二さん(47)さんを人質に、イスラム国が2億ドルもの身代金を日本政府に要求し、事態は一気に動き始めたが、今になって思えば日本政府が2人を救出するチャンスはこのタイミングしかなかったのかもしれない。

 著書「イスラム国の正体」で知られるジャーナリストの黒井文太郎氏(51)は、今回の日本政府の交渉について、こう解説する。

「問題は犯人であるイスラム国側の要求をのむかどうかだった。要求をのめば国際的に批判されて常にテロに狙われる脅威が高まり、要求をのまなければ2人の命はないという、両立しない難しい問題に日本政府は直面した。実際には日本政府が身代金の要求を突っぱねたわけで、結果的に人命よりもテロに屈しないことを優先したことになる」

 日本政府が身代金要求を突っぱねた直後、イスラム国は湯川さんをただちに殺害。さらに要求が身代金からヨルダンに収監される女性死刑囚と後藤さんの人質交換に変わったことで、日本政府は交渉の主体性を失ってしまった。

 黒井氏は「要求が後藤さんと女性死刑囚の交換になった時点で、交渉の主導権は日本政府からヨルダンに移り、複雑化してしまった。もし、日本政府が人命救助を優先していたのなら、最初の身代金要求をのまなかったのは大失敗」とバッサリ。さらに「仮にヨルダンではなく、トルコを交渉の仲介役に選んでいたとしても、イスラム国が同じ要求をしてきた可能性は高く、状況は変わらなかった」と分析した。