イスラム過激派「イスラム国」に拘束されていたジャーナリスト後藤健二さん(47)が殺害されたとみられる映像が1日朝、インターネット上で確認された。先月24日に湯川遥菜さん(42)が殺害されたとみられる画像が公開されたのに続き、邦人人質事件は最悪の結末を迎えた。事件に関連して、朝日新聞記者が外務省の渡航自粛要請に応じずシリアに入国し、批判的な報道やネット上のバッシングを受ける事態も起こっている。

 朝日は1月31日、2月1日の朝刊(東京本社発行、以下同)でシリアからのリポートを掲載。読売は31日夕刊、産経は1日の朝刊で、朝日記者の入国や現地取材を報じた。人質事件を受けて外務省は報道各社にシリアへの渡航自粛を呼びかけていたが、朝日は従わず、読売と産経が問題視した形となった。

 読売の記事に対し、朝日新聞特別編集委員の冨永格氏が31日にツイッターで、「日本国の要請に逆らって危険地帯に立ち入るとはけしからん、ウチは我慢しているのにというフラストレーションがありあり(笑)。政府広報じゃないんだから、もっとジャーナリズムしませんか。もちろんリスクを慎重に吟味した上でね」と挑発。その後、「読売に抜かれてるぞ、がんばれ産経」と後出し報道となった産経をやゆした。

 ネット上の反応は「なんで他人の迷惑を顧みないんだろ」「朝日は頑張っている」と賛否両論。冨永氏は昨年9月11日に同社が慰安婦報道と福島原発事故報道で謝罪した際、「朝日の911」と米同時多発テロを想起させるツイートをして、ネット上で物議をかもしたこともある。

 後藤さん解放情報が流れて報道陣がトルコとシリアの国境に集まった際には、「日本人記者が狙われている」ともささやかれた。朝日記者の“強行入国”は新たな人質を生みかねない。政府関係者は「人質になったら会社がなくなっちゃうんじゃないですか」と影響の大きさを推し量る。

 中東など紛争地で取材を続ける40代の戦場ジャーナリストは「こういうことがあったからこそ、自分の目で現地を見たいというのは当然のことです」と理解を示す。

 とはいっても危険はないのか。「イスラム国と敵対している自由シリア軍といるなら危険度は低くなる。問題はフィクサー選びです」(前出ジャーナリスト)。フィクサーとはガイドのこと。情報源になるだけでなく、運転手、通訳としても助けになる。

「紛争地ではフィクサーがビジネスになっているので、売り込みがあります。裏切られることもあるので誰を選ぶかが大事なのですが、素性を調べることもできない。結局、感覚で信頼できる人物を選ぶしかなく、運の要素が強い」(同)

 フィクサーの料金は1日100ドルから200ドルほど。危険地帯に入り込むほど値は上がる。「フィクサーのおかげで助かることもあるし、ギャラの支払いでもめて、武装勢力に売られることもある。後藤さんはフィクサーに売られたと言われていますが、イスラム国の支配地域に行こうと思ったら、イスラム国とつながりのあるフィクサーに頼らざるを得ない。そうでないと現地の取材ができませんから」(同)。とにかく現地ではフィクサーが頼り。後藤さんはフィクサー選びに失敗した可能性もある。

 フィクサーからは「日中でも出歩くな。歩くなら人混みにしろ」「目立つ行動はするな」と注意される。紛争地では外国人は特に目立つという。「中東では外国人の誘拐がビジネスとして行われています。一番危ないのが車での移動中。道をふさがれたり、集団で囲まれたりいろいろパターンがあります」(同)。車の中にいては逃げようがない。

 万が一、朝日記者が人質になったら救出できるのか。「後藤さんの場合は、ヨルダンが間に入ったことで救出の可能性が高まっていたと思います。しかし、できなかった。日本政府に交渉能力はないので、そこは期待できません」(同)

 たとえ危険でも記者が現地に行きたいというのを止められないという。「以前、別の紛争地で大手メディアが来ない中、読売の記者が『見てみたい』と来たことがあります。現場の記者の気持ちはそうでしょう」(同)。朝日記者がフィクサーを雇ったとすれば、悪意のない人間であることを願うばかりだ。