「リケジョの星」があれから1年、捜査対象となる危機に立たされた。STAP細胞論文の不正問題に関連して、理化学研究所の元研究者で理学博士の石川智久氏(60)が26日、同論文の主著者で元理研研究員の小保方晴子氏(31)が研究室から胚性幹細胞(ES細胞)を盗んだとして、窃盗容疑での告発状を兵庫県警に提出した。県警は受理するか否かを慎重に検討する。STAP細胞に関する記者発表が行われたのは昨年1月28日。科学界のヒロインをめぐる状況は暗転した。

 石川氏は、小保方氏がSTAP細胞論文の共著者の一人である若山照彦氏(現山梨大教授)が理研在籍時代に構えていた研究室からES細胞を盗み、STAP細胞と偽称したと主張。同氏はこの日、兵庫県警水上署(神戸市)に小保方氏に対する刑事告発状と関連資料を提出した。

 小保方氏は理研の研究ユニットリーダーとして昨年、STAP細胞論文を発表。2013年初めごろまで、若山研究室の一員として研究を行っていた。

 石川氏は理研退職後の昨年4月から、関係者の証言を集めるなどして小保方氏の疑義を独自に調査した。若山研究室で行方不明になっていたES細胞入りチューブが、小保方研究室にあった箱の中で発見されたことが窃盗の証拠とされる。

 箱の所有権は理研にある。理研側はSTAP細胞問題の幕引きを図っている様子も見られ、事件化を望んでいないかもしれない。窃盗罪での立件を疑問視する指摘もあるが、石川氏は言う。

「小保方氏は当時、ハーバード大学のバカンティ教授の博士研究員として主な籍を置き、理研へは客員として出向している立場だった。A社から出向している人物がB社の物を盗んだとなれば、B社の知的財産を盗んだということになります。小保方氏もこれと同じ」

 ではなぜ、小保方氏はこのような行為に及んだというのか。石川氏はその“動機”にも踏み込んだ。

「自らの名声と、理研での地位と安定した収入を得るためでしょう。アメリカに留学して滞在するには(交換留学生らに発行される)J1ビザが必要だが、3年か4年で切れる。そうなると(専門職に就く人らに向けた)H1ビザかグリーンカード(永住権)が必要になるが、彼女の場合アメリカでの実績がないから厳しい。ハーバードで研究員のポジションを延長することが難しくなったので、理研で残ろうとしたのでしょう。そしてSTAP細胞研究を亡くなった笹井(芳樹=論文共著者、旧理研発生・再生科学総合研究センター副センター長)さんらにアプライ(志願)し、これは面白い研究だということで、破格の待遇でユニットリーダーとなったのです」

“窃盗”の被害者と言える若山氏に対しては「今回の件で5分ほど話しましたが、いま、かわいそうなくらい本当に弱っておられます。若山先生はだまされた立場。同じ研究者として救いたいという気持ちです」。

 現段階で石川氏の告発状は兵庫県警に受理されていない。

「(受理されるまで)これから半年、1年かかるか分からない。告発状を警察が用意したフォーマットに書き直したり、分かりにくい部分について警察から説明の要請があると思うので、真摯に応えていく。私のこの告発の究極のゴールは立件まで持っていくこと。先々は詐欺罪、横領罪まで進むべき。国民の税金が無駄に使われた実験なので、厳しく追及していかなくてはならない」

 小保方氏が名誉毀損で石川氏を訴え、反撃に出る可能性もある。石川氏は「受けて立ちます。ES細胞をSTAP細胞と偽称していない証拠を出せと言いたい。彼女が再現実験に失敗していることがこれ以上ない根拠です」。

 小保方氏の代理人の三木秀夫弁護士は「石川氏から一切の連絡はないし、告発状も見ていないので何も話すことはできない」とコメントした。