【イスラム国・日本人拘束事件】後藤さんの肉声メッセージに隠された“暗号”

2015年01月27日 07時30分

【イスラム国・日本人拘束事件】「イスラム国」とみられる過激派組織に人質にされ、殺害予告が出ていた湯川遥菜さん(42)が殺されたとする画像が24日深夜、インターネット上に公開された。同じく人質のジャーナリスト後藤健二さん(47)に関しては、ヨルダンで拘束されているイラク人女性死刑囚の釈放をイスラム国側は訴えている。事態は2億ドルの身代金から一転、人質交換という新たな局面を迎えた。“湯川さん殺害”と第2の声明となる後藤さんの肉声メッセージに隠されたイスラム国の狙いと後藤さんの意地も込めた“暗号”とは――。

 24日午後11時過ぎにネット上に公開された写真に衝撃が走った。オレンジ色の服に手錠をかけられた後藤さんが手に一枚の紙を持っている。映し出されていたのは湯川さんとみられる男性で、1カットはひざまずき、もう1カットは体の上に切断された首が置かれた凄惨なものだった。同様の画像は24日午前に後藤さんの妻に届いていた。

 これまでイスラム国が人質を殺害したケースでは、いずれも首を切断する瞬間や、切り落とした首を手に持つ動画が公開された。今回は静止画で、慣例を破ったともいえる。軍事評論家の神浦元彰氏は「(静止画だけでも)残忍だが、イスラム国はネット戦略にたけ、日本の世論にも敏感。(動画だと)日本人には刺激が強過ぎると思ったのでは」と指摘する。

 同時に公開された後藤さんとみられる英語でのメッセージは、「期限が過ぎた。アベ(首相)、あなたがユカワを殺した」としたうえで、「(イスラム国は)もうカネを求めていない。サジダ・リシャウィの釈放を求める」と2005年にヨルダンで起きた自爆テロ事件で、当局に逮捕されたリシャウィ死刑囚との人質交換を新たな釈放の条件に挙げた。

 イスラム国は20日に2人の殺害を予告したうえで、身代金2億ドル(約235億円)の72時間以内の支払いを求めていた。関係者の間では、後藤さんが聖書を持ち歩いているほど熱心なキリスト教徒だったのに対し、湯川さんは昨年4月にシリア渡航時にイスラム教に改宗している背景から、異教徒である後藤さんに先に危害が及ぶのではないかという見方がもっぱらだった。

 イスラム国事情に精通するジャーナリストの常岡浩介氏は「イスラム法では改宗前の罪が許されるというのがある。湯川さんはイスラム教徒になったばかりで、いわば事情を知らなかったという情状酌量の余地があった。ところがイスラム国は湯川さんが改宗したのを知らないのか、知っていて知らないフリをしたのか、今回手をかけた。イスラム国はイスラムを名乗っているだけで、全く建前でしかない」と指摘する。

 また湯川さんは拘束時に会話が成立していなかったように、片言しか英語を話せなかった。「今回、後藤さんが新たな要求のメッセージを英語で伝えたが、湯川さんは(流ちょうな)英語ができなかった。今後の交渉でも後藤さんの方が貴重に映ったのでは」(常岡氏)。人命を単なる交渉カードとしかみていないイスラム国の冷酷無比な姿勢が、改めてうかがいしれる。

 メッセージはイスラム国の言い分を後藤さんがそのまま代弁したかのように見える。「(メッセージで)後藤さんがリシャウィ死刑囚に“シスター”と敬称をつけていたが、これは“同胞”という意味合いで、普通なら“ミス”や“ミセス”と言うところ。安倍首相のことを“アベ”と呼び捨てにしている点からもイスラム国が用意した原稿を読まされていたのでしょう」(常岡氏)

 その内容から後藤さんの父親・行夫さんは「(後藤さんの)肉声じゃない」と懐疑的。音声解析では専門家の見方も本人説、別人説とさまざまだ。「(メッセージ読み上げは)銃口なりナイフを突きつけられた状態で、逆らうことはできなかったでしょう」(神浦氏)。公開された画像で後藤さんのツメは赤くなっている。イスラム国ではツメをはがしたり、ムチ打ちする拷問があり、後藤さんは死の恐怖と向かい合わせの中での緊迫した状況だったことが推測される。

 それでも一点だけ不可解な点があった。後藤さんの「(私が)所属するインデペンデント・プレス(IP)の同僚たちは政府に圧力をかけてほしい」という呼びかけ部分だ。

「後藤さんが興したIP社は後藤さん一人の会社。(イスラム国側の)間違いを指摘しないで読んだのか、アドリブを利かせたか。『この文章は俺が用意したものではない』という後藤さんの抵抗が伝わってきた」(常岡氏)。後藤さんの隠れた意地を感じたという。

 暗号めいた後藤さんのメッセージ。今後の交渉は、金銭要求から人質交換へと条件が変わり、カギを握るのは日本政府からヨルダン政府へ移ったともいえる。時間的リミットは触れられていないが、一刻の猶予も許されない状況が続いている。