一連のオウム真理教事件で罪に問われた元信者・高橋克也被告(56)の第4回裁判員裁判が21日、東京地裁で開かれ、教団の元幹部・井上嘉浩死刑囚(45)が証人出廷した。井上死刑囚と高橋被告は教団「諜報省」で長官と部下の関係だった。

 この日は傍聴席と証言台の間が遮蔽板とアクリル防弾パネルで二重に仕切られ、警備員も通常の倍。物々しい雰囲気で、井上死刑囚は「高橋さんの上司だった私が指示したことが多く、責任は私にある」と語った。

 前回に引き続き行われた猛毒VXを使った襲撃事件の審理は殺意、共謀の有無が争点。井上死刑囚は「非合法活動を行う場合、高橋さんには内容を伝えていた」とし、元信徒を支援した男性襲撃の際にも「(教祖の)麻原(彰晃死刑囚)が『VXをひっかけてポア(殺害)しろ』と言っていると伝達した」と証言した。

「オウム真理教被害者の会」(現オウム真理教家族の会)会長の永岡弘行さんへのVX襲撃の際に「高橋さんが『傘で目隠ししよう』と言った」とも証言。井上死刑囚は当時を振り返り「(疑問を持てば)自分が麻原からポアされかねないという自己保身があった。被害者に多大なご迷惑をかけた」と謝罪したが、否認する高橋被告は無表情のままだった。

 反対尋問では弁護人が突然、井上死刑囚に「あなたの姿もしゃべる様子も傍聴人から見えない。この異常な状態はあなたが望んだの?」と食ってかかり「見られないようにしないと本当のことを言えないんですか! 公開裁判を受ける権利の侵害だ」と異議を申し立てたが、裁判官にあっさり却下された。

 その後も「(高橋被告に)ポア(の目的)とは言っていないのでは」「被告が謀議に参加したというのはあなたの作られた記憶じゃないのか」と証言を崩そうと迫ったが、井上死刑囚から「誤導(尋問)です」と冷静に抗議される始末。井上死刑囚は事件当時の粗暴な印象は鳴りを潜め、終始穏やかな口調だった。