神奈川県平塚市の相模川で昨年11月、同県厚木市の吉田綾奈さん(26=当時)の遺体が見つかった事件で、容疑者の虚飾めいた二面性が浮かび上がった。死体遺棄容疑で平塚署捜査本部に15日逮捕された大和市の元交際相手・建設作業員神岡誠治容疑者(34)はネット上で吉田さんを懸命に捜す書き込みをしていたが、ずさんかつ奇怪な偽装は通じなかった。

 吉田さんの遺体は昨年11月5日、相模川に浮いた状態で見つかった。布団で二重に包まれ、ロープで巻かれ、中にはブロック状の石2個が入っていた。身に着けていたのはTシャツに下着程度。10月21日に交流サイト・フェイスブックに「ストーカーやめて」と書き込んでおり、平塚署捜査本部は殺人、死体遺棄事件とみて、交友関係をめぐるトラブルの有無などを慎重に捜査してきた。

 吉田さんは10月27日に外出後、行方不明に。直前に「元カレのところに行く」と母親に伝えていた。その後、複数の報道陣の取材に元交際相手として答えた神岡容疑者のウソが際立っている。

「最後に会ったのは10月26日の日曜日。彼女の忘れ物のパーカを横浜の母親のところへ届けに行った」「(犯人は)なんでこんなひどいことをしたのかと思う。早く出てきて謝ってほしい」

 吉田さんを両親が血眼になって捜したときも、神岡容疑者は心配するそぶりをして一緒に捜し回った。10月29日にはフェイスブックに「彼女と連絡取れなくなって困ってます! 誰か情報ありましたら、教えてください!」と書き込んだ。それだけに逮捕後、両親は弁護士を通じ「一緒に捜してくれたのは、全て彼の偽装工作だったかと思うと、裏切られたという気持ちでいっぱいです」と無念のコメントを発表した。

 さらに、FNNニュースによると、神岡容疑者は吉田さんの行方がわからなくなる直前に「こいつ殺るから マジ殺人衝動ヤバし」といった書き込みもしていた。吉田さんが無料通信アプリ・LINEに新しい交際相手とのキス写真を載せたことに対する反応だったという。

 行方不明の元彼女を心配する一方、殺意をほのめかす――。ネットで相反する感情をさらしていた神岡容疑者は昨年、共同通信の取材に「何も話さない」と答えつつ「家に来るな。名刺をツイッターに上げる」「取材のせいで引っ越さなきゃいけなくなったとネットに書く」などと、ネットユーザーぶりをうかがわせる反応を示していた。

 吉田さんの遺体には頭を複数回殴られた痕があり、死因は頭蓋骨骨折を伴う脳挫滅だった。

「2人は約2年間、交際し、一時は同棲していたが、吉田さんには事件当時、別の男性が現れ、別れを切り出し、神岡容疑者が納得しなかったようだ。吉田さんは、知人に神岡容疑者との関係で悩みを相談していた」(捜査関係者)

 捜査本部によると、神岡容疑者は周囲に対し事件への関与を否定していたが、14日に捜査本部が任意聴取を始めると「綾奈を川に捨ててすみませんでした」と供述。逮捕直後も「間違いない」と容疑を認めた。「勤務先のトラックで遺体を相模川に運び、捨てた。布団などは身の回りのものを使った」などと話しているという。

 逮捕では、吉田さんの行方不明後、神岡容疑者が仕事で使用している別の車が相模川周辺の防犯カメラに写っていたことに加え、布団から同容疑者のDNA型と一致する付着物が採取されたことが決め手となった。捜査本部は遺体を包んだ物にも仕事道具が含まれている可能性があるとみて調べている。

 ずさんで奇怪な偽装書き込みが通じなかった神岡容疑者。捜査本部は16日、死体遺棄容疑で同容疑者を送検。殺害への関与も調べる。