連続放火魔の“奇怪すぎる行動”が、本紙の取材で明らかになった。東京都多摩市で建築中の住宅ばかりが相次いで放火された事件で、警視庁多摩署は11月30日、無職の男を非現住建造物等放火容疑で逮捕した。「ムシャクシャしてやった」と動機を供述しているが、その心の中は自己顕示欲の塊のごとし。まるで逮捕されることを望んでいたかのように、犯行現場に自分の名前をわざと残していたというから前代未聞だ。理解不能の男の行動は、いったい何を意味するのか?

 警視庁捜査1課に逮捕されたのは、東京都日野市の無職粕谷聡容疑者(22)。9月12日午前2時ごろ、多摩市一ノ宮の新築工事中のアパートに放火し、床や柱などを焼いが持たれている。この事件を含め9月12~20日の短期間に、半径約2キロのエリアで計6件の放火被害が発生。しかも、火がつけられたのはいずれも深夜で、すべて建築中の住宅だ。

 送検時とみられる、多摩中央署を出る際の姿が放送されたテレビ映像での粕谷容疑者は、顔を隠そうともしなかった。

「ガソリンをまいて火をつけたことは間違いない。ムシャクシャしていた。他の建築中の家にも火をつけた」と他5件の放火も認めているという。

 自宅近くのガソリンスタンドで、ガソリンを購入する粕谷容疑者の姿が防犯カメラにとらえられていた。放火現場からガソリンが検出されたとの情報もある。映像からも捜査線に浮上したが、現場にはもっと分かりやすい証拠が残されており、警察は9月下旬段階で容疑者リストに入れていたという。

 事件関係者は「自分の名前の書かれた物を現場に残していた。うっかり置き忘れたのではなく、わざと残していったようだ」と明かす。

 まったく意味不明な行動。その特異性には、元刑事の犯罪ジャーナリスト小川泰平氏も「自分が扱ってきた事件で、犯行現場に名前を残した犯人はいなかった」と驚く。

 確かに、放火犯の多くは自分の犯罪を誇示する傾向がある。それゆえ、人の目に広く触れやすい炎を扱う。ただし、それは「逮捕されない」前提での行動だ。そして「オレを捕まえてみろ」という挑発でもある。

「自分の名前の入った物を現場に残しただけでなく、ときには火種として使っていたようだ」(前出の関係者)。そんなことをすれば、逮捕されるのは当然のこと。

 粕谷容疑者は通信販売を利用していた。現場に残された名前入りの商品を警察が調べると「スマホで購入した」ことが判明。ところが「商品は未使用か、ほとんど使っていなかったようだ。欲しかったのは、自分の名前が入った商品の納入書や領収書だったとみられる」(同)というから、常人の想像を超える。

 ある現場には、ダンボール箱、商品、そして名前入りの納入書が残されていたそうだ。つまり「自分が火をつけた犯人だ」というメッセージを残していったわけだ。

 他の何者かが、粕谷容疑者に罪をなすりつけようとしたとも考えられるが、今のところ本人からそのような供述はない。

 実は、粕谷容疑者は以前にも同様の犯行で警察沙汰になった。

「人の家のポストにハガキを入れて、それに火をつけた。しかも、自分の名前が書いてあるものだった」(同)

 理解しがたい粕谷容疑者の心理。ひょっとして、放火をやめたいのに衝動を抑えられないため、あえて名前を残し、「警察に捕まりたい」という願望があったのか。小川氏は「名前を出しても『今度は捕まらないぞ』とメッセージを送って、警察にリベンジしたかった可能性もある」と語る。

 捕まりたかったのか、逃げ切る自信があったのか? どちらにしても早い段階で名前入りの物品を警察が入手していれば、6件の連続放火は防げたかもしれない。