タイ警察は26日までに、日本語教師の島戸義則さん(79)を殺害したとして逮捕されたタイ人の男、ソムチャイ容疑者(47)と、内縁関係にあるポンチャノック容疑者(47)を、別の日本人男性の田中勝利さん(56=当時)を殺害した疑いで再逮捕した。田中さんは2002年にポンチャノック容疑者と結婚。同容疑者は島戸さんとも交際しており、いずれの事件も財産目当ての犯行だとみられる。なぜ、老後をタイでのんびり過ごそうとした島戸さんは極悪な中年女に取り入られたのか。専門家は老後をタイで過ごそうと考えている人々に注意点を提示した。

 定年後の人生を物価が安く、温暖な気候の東南アジアでノンビリ過ごそうと思って海外移住を考える人が多くなっている。タイの場合、50歳以上で同国の銀行に80万バーツ(約265万7840円)の預金があり、残高証明書をタイの役所に提出すれば、1年間居住できるリタイアメントビザを即日発行してもらえる。しかし、海外移住がすべてバラ色というワケではない。

 情報誌「アジアンキングダム」(12月1日創刊、ミリオン出版)の編集長で、東南アジアの生活に詳しいブルーレット奥岳氏はこう指摘する。

「最近では海外からの移住者を狙った犯罪が各国で増えてきています。特に痛ましいのが、今回の事件で被害に遭われたような、高齢者男性が一人で移住しているケースなのです」

 意外にも高齢移住者の多くは、日本で移住あっせん業者の話やパンフレットの閲覧だけで移住先を決め、いきなり渡航してくるケースが多いのだという。そんな移住先の中でタイは、治安も良く、物価も安いことで、人気になっている。

 しかし、奥岳氏は「タイ移住を案内するあっせん業者のセールストークの中に『タイには日本人が多く住んでいますから安心ですよ』という定番の文言がありますが、タイに住んでいる日本人の多くは企業の駐在員やその家族で、会社が用意したセキュリティーがしっかりしたマンションなどに住んでおり、その家賃は月十万円以上。とても高齢者リタイア組には住めるようなマンションではないのです」と語る。

 業者のセールストークをうのみにして、用意されたマンションに入居してみれば、周りはタイ人ばかり、なんてことにもなりかねない。

「もともと人付き合いがあまり得意ではない日本人の高齢男性が、そんな環境の中へいきなり放り込まれたら、知り合いを作るどころの話じゃありません。待っているのは、誰ともしゃべることのない孤独な生活なのです」(同)

 そしてそんな孤独な男性が陥りやすいのが、日本語を話すことができるタイ中年女性からの誘惑だ。島戸さんとポンチャノック容疑者は、健全マッサージ店で知り合ったとされている。

 奥岳氏は「よくあるパターンとして、高齢男性は、訪れたマッサージ店で中年女性にもんでもらうことになり、マッサージしながら女性に日本語で話し掛けられ意気投合。タイへ来て誰ともしゃべることのない生活をしていたため、久々に日本語で女性と話せる楽しさから店へ通い詰め、男女の関係になりがちです」と話す。

 実際、タイはそこら中に夜遊びスポットがあり、安い値段で若い女性とたっぷり遊ぶことができる。しかし、「タイが夜遊びスポットにあふれる国であることを知らずに移住する高齢者は少なくないようです」(同)。

 また、基本的なことだが、食も重要だ。高齢になるほど、スパイシーなタイ料理などは毎日食べられない。「結局は日本食レストランに毎日、行くハメになり、食費が日本と変わらない値段になるのです。見込みと実際はかなり違うってことを実際に暮らしてみて、思い知るのです」(同)

 これから海外移住を考えている高齢者は、移住を決める前に何度か現地を訪れて、自分の目で生活環境がどうなっているのか確認し、風俗事情や食事についてもしっかり勉強すべきだろう。