9月に入って、朝晩が過ごしやすくなってきた。おいしい食べ物やご飯が楽しめる「食欲の秋」も、すぐ目の前。ところが、そんないい季節がやってきそうな今、全国各地で秋の味覚の代表、コメと梨が盗まれる事件が起きている。盗んだ作物は人知れず闇に流されているようだが、丹精込めて作った農家は、がっかりしている。

 香川県に現れたのはコメ泥棒だ。まんのう町の農家の男性(44)の倉庫から12日、大量の新米が盗まれた。琴平署によると、収穫を終えて紙袋に詰められた「コシヒカリ」80袋(約2・4トン)が消えた。卸価格は1袋約9000円。被害額は約70万円に上る。倉庫の鍵は開いていた。琴平署幹部は「この量では軽トラックで運べない。コメを扱う業者が犯人の場合がある」と話す。少量のコメなら、知人らに売りさばくなど処分は簡単だが、大量のコメを流すことは困難だ。宝石でも絵画でも、盗品は盗むことより、売りさばくことが難しいとされる。

「業者関係者じゃないと、さばけない。仲買人の中には悪質なのもいる。ルートを持っていないと、処分しきれない」(同幹部)

 新米は13日に出荷を控えていた。コメ農家の怒りは察するに余りあるが、怒れる農家は新潟にも。

 新潟南署によると、11日までに、新潟市南区の兼業農家の50代男性が持つ梨畑から、約500個の梨(約300キロ、9万円相当)が盗まれた。「あきづき」という品種だ。畑に生えている多くの木から、実のなった枝がもぎとられていた。男性によると「今でも十分においしいが、あと1週間がベストな食べ頃」だという。

 新潟南署幹部は「丹精込めて作った作物を盗まれた農家のお怒りは大変なもの。男性は『早く何とかしてくれ』と言っている。500個もあると、親戚に分けても分けきれない。転売目的かもしれない」と語る。

 秋の味覚ではないが、スイカも狙われた。山形県警尾花沢署は12日、尾花沢市の農家の男性(63)が育てたスイカ63個を盗んだとして、窃盗容疑で宮城県の会社役員の男(63)と同社社員の男(48)を逮捕した。

 同日昼ごろ、畑から計2万5300円相当のスイカを盗んだ疑い。目撃者の通報で犯行が発覚した。同市はスイカの産地だ。

 捜査関係者らは「農作物の泥棒は、なかなか捕まりにくい」と声を揃える中、逮捕されたのは幸いだ。

 最後はカボチャ。5月にホームセンターでカボチャの苗2株(518円相当)を盗んだとして、兵庫県警西宮署の男性警部補(56)が窃盗容疑で9月12日に書類送検された。「病気療養中で、家庭菜園が趣味だった」(県警)。後ろめたいことがあると、食べ物のおいしさも半減してしまうだろう。