愛媛県伊予市の市営住宅から17歳の無職大野裕香さんの遺体が見つかった死体遺棄事件で、大野さんが苦しんだ凄惨な生き地獄の実態や、主犯とされる無職の女(36)の正体が本紙の現地取材で浮かび上がった。若者たちを部屋に招き入れていた女は、その息子たちとともに大野さんを暴力で支配。少女の危険を知っていながら、本腰を入れて対応にあたらなかった警察と市にも批判の声が上がっている――。

 異常な暴力が振るわれた現場となった市営住宅では、17日も愛媛県警による現場検証が一日中行われた。3階の一室で15日、大野さんの変わり果てた姿が見つかっている。

 伊予署は部屋に十数年前から住む女と、無職の長男(16)、長男の知人の男ら計4人を死体遺棄容疑で逮捕したが、大野さんは女の一家から“暴力支配”を受けていた。

 市営住宅の住人A氏は「5月か6月の昼に、団地の公園の中で座っていた大野さんを長女が思い切り蹴っていた。何度も何度も顔面や頭を蹴っていた。『タイマンしてた』と報じられているけど、私が見た暴力は完全に一方的。大野さんは反抗せずにやられるがままだった」と証言する。

 抵抗さえしなかったということは、執拗な暴力などにより洗脳されていた疑いが出てくる。まさに“生き地獄”だ。

 大野さんは少なくとも1年半前から松山市の自宅を家出していた。女の長女と知り合いで、市営住宅に転がり込んだとみられる。「ダイニングキッチンルーム以外に3つ部屋があったんですが、開けっ放しのドアから中をのぞくと、玄関に靴があって、多い日は15人くらい入り浸っていた。もうそんな日は騒がしくて大変でしたよ」(A氏)


 同時期に別の少女も入り浸っていたが、暴力を振るわれるなどしたため、今春、逃げ出したという。そこから大野さんへの暴力がひどくなったという話もある。

 女は18歳の長女を筆頭に、長男、次女らの4人の子供を持つ。「離婚した後、どういう関係か知らないが男をとっかえひっかえ家に連れ込んでいたよ」(住人B氏)。外見については、近所に住む女の子が似顔絵を描いてくれた。女の子の母親によると、「つり目で、髪をお団子にしていて、ムーミンに出てくる『ミイ』に似ていた」。

 前出のA氏はおぞましい噂を証言してくれた。女が自分の息子や娘以外に、他家の少年を入り浸らせ、少女らを同居させた“異様な家族”を構成するに至った根幹に関わるかもしれないことだが、その内容はあまりにも常軌を逸しており、本紙では慎重に取材を進めている。女性主導でその親族も関わり、第三者を隷属状態にさせるといえば、2011~12年に表面化した兵庫・尼崎の連続変死事件をほうふつとさせる。それだけではない。

「ペット禁止なのに、2匹も犬を飼ったり、ゴミ出しのルールも守らない。夜中まで家の中で音楽をガンガンかける。お金も問題があった。団地の共益費をずっと払っていなかったんだ」(住人C氏)

 実は、この金銭問題は、大野さんの運命を変える一因になった。7月18日、市役所の課長も交えた市営住宅の自治会が開かれたのだが…。

「女の子への暴力を何度も確認していた団地の有志は、その対策を自治会の議題にして、本気で暴力をやめさせるために市に働きかけようとした。でも、いざ発案されると『そんなことより、未払いの共益費を払わせることが大事だ』となり、暴力の問題は後回しになってしまった」(C氏)

 女は何年もの間、月1000円足らずの共益費の未納を続けていた。この問題が優先されてついに悲劇が…これでは亡くなった大野さんも浮かばれまい。

 それでも、機会があるごとに自治会は市に対策を訴えていたが、市は「問題が起きたら、すぐに警察に通報していいですから」と対応を丸投げ。住人らからは「市が一番悪い」という声が多かった。

 一方、警察の非も否めない。7月19日、女性が暴力を受けているとの通報を受けて、署員が部屋まで来た。A氏は「私はその様子を見ていたが、警察はピンポンを押して、反応がないから帰っていった。その後すぐ、出入りする若者たちが入っていった。家族は居留守を使っていたんだよ」と語る。

 事件後に市営住宅の聞き込みに刑事らが来たが、「私は『あんたらの怠慢で人が死んだ』と言った。刑事は『申し訳ありませんでした』って謝っていたよ」(同)。

 自治会の一部の住人、責任を取ろうとしない市、及び腰になって捜査に踏み切らなかった警察。責任をたらい回しにした罪は重い――。