作りたかったのは監禁“小屋”だった。岡山県倉敷市で女児(11)を連れ去った、自称イラストレーターの藤原武容疑者(49)が裏庭に監禁小屋を作ろうとしていたことが分かった。昨年夏に藤原容疑者は、近所の工務店に建物の新築を相談。規則上、無理だと分かると、親族に規則の抜け道をつくような依頼を持ちかけるほどの執念をみせていた。新築に際して、「母がはいかいするため」と理由を話していたが、親族は「うそでしょう」と否定。「自分好みの女性を育てる」という妄想は少なくとも1年前からあった。

 藤原容疑者が調べに「数か月前から女児に目星を付けて連れ去った」と供述していることが22日、分かった。捜査関係者によると、自宅から犯行を示唆するメモや女児宅周辺の住宅地図が押収された。「2月から下見をしていた」などとも供述しているという。女児宅周辺では、近所の女性が4月に藤原容疑者とみられる男を目撃し、女児の母親(39)も5月に銀色の車につきまとわれたと県警に相談していた。6月にも目撃している。

 しかし、実際の監禁計画は1年以上前に練られていたようだ。昨年7月、藤原容疑者は近所の工務店をアポなしで訪れ、「裏庭に“離れ”を作りたい」と相談していた。理由を「イラストレーターの仕事のためと、母親がはいかいするので介護のため」と説明していたという。

 同8月に工務店関係者が自宅を訪れ、現地を調べた結果、5メートル四方でトイレ・シャワー付きの建物が一旦は計画された。もちろん防音完備だ。藤原容疑者からは「外からの音が入らないようにしてほしい。窓もつけないで」と要求があった。

 しかし、工務店関係者がさらに調査すると、裏庭は農地保全を図るための市街化調整区域で、基本的には新しく建物が建てられないことが判明。それでも藤原容疑者はあきらめなかった。

 農家を営む親族の元を訪れて「建物は駄目だけど、納屋なら大丈夫なんだ。叔父さんの名義で納屋を建ててくれないか。設計もお金も自分で用意するから、頼むよ」と依頼した。藤原容疑者が独自に調べたようで、規則上、農業に従事する人なら納屋を作れると説明してきたという。

 普段からあまり交流がなかった親族を訪ねてまで“小屋”にこだわっていた。まるで名義貸しのような規則の穴をつく要求に対して、親族は「断りました」と語る。その後、同10月に工務店から「増築にしてはどうか」とアイデアがあり、藤原容疑者が受け入れたという。白紙となった監禁小屋計画が監禁部屋へと変わった。

 8月に着手金200万円、12月中に監禁部屋が完成した後の翌年1月に600万円を支払った。キャッシュだった。もし新築で建てられたら「もっと高くなっていた」と工務店幹部は話す。やはり財力はある。

 監禁部屋についてこの工務店幹部は「台所の一部をリフォームして、1坪分出っ張る形にした。出入り口は台所とつながっており、本来なら内側に作るカギを外側につけた。壁だけでなく天井も床も防音にしている。窓をつけるなと言われた覚えがある。カラオケや音楽関係で防音にする人はいるから、てっきりそうかと…」と話し、犯罪に使われたことにショックを受けている。

 母親の介護のためという理由には、疑問符がつく。近所の男性は「母親は腰を打って入院したことはあったけど、はいかいまでは聞いたことがない。介護のための部屋と信じたいけど、窓がないのはおかしいよね」と話す。前出の親族は「はいかいなんてうそですよ。そんなんじゃないと思います。(藤原容疑者は)うそをついてるんじゃないですか!?」と怒っていた。

「真面目そうだけど、神経質な印象も受けた」(前出の工務店幹部)という藤原容疑者の自宅からは、手書きの犯行計画書が見つかっている。連れ去るときの脅し文句や監禁の方法が記述されていたという。

 また、監禁部屋完成後の2月から10回以上も、倉敷市の連れ去り現場に車を走らせていた。4月ごろには被害に遭った女児を認識していたとみられ、「数か月前から狙いを定めていた」と供述している。

 工務店に相談してから犯行まで約1年。その執念をほかに向けることはできなかったのか。