知人名義のカードで現金を不正に引き出したとして、窃盗容疑で福岡・筑後市のリサイクル業、中尾伸也(47)、知佐(45)両容疑者夫婦が逮捕された事件が不気味な展開を見せている。夫妻の周辺では5人前後の関係者が行方不明になっており、故角田美代子元被告が主犯とみられる兵庫県尼崎の連続変死事件のように拡大するのか注目される。

 逮捕容疑は、2007年7月~13年11月、知人男性名義のキャッシングカード3枚を使って現金自動預払機(ATM)から計約53万円を引き出した疑い。被害者は知佐容疑者の知り合いで、「カードは自分では作っていない」と話しているという。県警は11日の逮捕以来、伸也容疑者が経営するリサイクル店、自宅も連日家宅捜索している。


「逮捕の1か月前くらいから、自宅の庭の地面を覆っていた不自然な黒い園芸用シートがあった。この下に“何か”が埋められていると捜査当局は踏んでいるようです。他にも店舗敷地内の地面など、大掛かりな捜索が行われている」(地元の関係者)


 伸也容疑者夫妻周辺の経済事情も明らかになった。伸也容疑者は1998年に自己破産。知佐容疑者も01年に自己破産した。さらに02年には伸也容疑者の両親、祖母までもが自己破産していたという。


「伸也容疑者の実家ではお母さんが理容室をやっていたのですが、99年ごろにお宅は差し押さえられ、競売にかけられたそうだ。原因は息子(伸也容疑者)のギャンブルらしい」(近隣住民)


 関係者によると、競売にかけられた実家は親族の手に渡った。県内の金融会社関係者の話では、実家には日掛け金融を含む複数社が毎日取り立てに来ていたこともあったという。その後、伸也容疑者は03年にリサイクル店を開店し、廃品回収のための従業員を雇うようになった。その従業員らが“被害者”になったとみられている。


 捜査関係者は「多いときで3~4人くらいが店に住み込みで働いていたようだ。伸也容疑者は親分、知佐容疑者もおかみさんのように振る舞って、従業員とは主従関係ができていた。何かにつけて従業員に『罰金や』などと因縁をつけ、消費者金融から借金させてカネをむしり取っていたようだ」と語る。


 県警は、伸也容疑者が資金繰りに苦しんで不正引き出しをした可能性もあるとみて捜査。元従業員らから事情を聴くとともに、行方不明となっている5人前後の元従業員の行方についても容疑者夫妻が事情を知っているとみて、捜査を続けている。


 リサイクル店は古い家々が並ぶ住宅街にある。行方不明者の情報まで出てきた事件の広がりに、付近の住民からは「気味が悪い」などと驚きと不安の声も相次ぐ。「伸也容疑者はよくあいさつする愛嬌のある人だった。ショックだ」と伸也容疑者の両親と付き合いのある男性が語れば、店を利用したことがある女性は「ここは大きな事件など起きないような地域なのに…」と戸惑った様子。尼崎連続変死事件は、ドラム缶に入った女性の遺体が11年に見つかったことを発端に、兵庫県警が12年以降に男女5人の遺体を発見し、自殺した角田元被告のほか、元被告の親族ら多数の被告が起訴された。中尾容疑者夫妻をめぐる事件は、第2の尼崎事件のように拡大するのか。