ミステリアスな空の失踪劇はやはり、「機長によるハイジャック」か? 8日から消息不明が続くマレーシア航空MH370便(クアラルンプール発北京行き/乗客227人・乗員12人)について、同国のナジブ・ラザク首相(60)は24日、オーストラリア西部パース沖のインド洋で墜落したとの見方を示した。本来の飛行ルートを外れた理由は明らかにしなかったが、かねてささやかれたパイロットによるハイジャックの可能性を専門家らが指摘した。

 ナジブ首相は、英国の衛星のデータを詳しく解析した結果、同機が飛行を終了した場所は「(陸地から)遠い地点で、着陸できる可能性のあるいずれの場所からも離れている」ことを墜落と判断した理由に挙げた。

 インド洋南部では、24日に中国の輸送機が白い四角い形のものなど複数の浮遊物を発見。オーストラリアのアボット首相も同日、これらとは別の物体2つを哨戒機が目視したと明らかにした。中国機が発見した場所はパース南西沖2500キロ付近の海域といい、オーストラリア機が発見した場所も同じ海域という。

 この海域に墜落した可能性について、軍事ジャーナリストの神浦元彰氏は「今回のボーイング777(全長約60メートル)が積める燃料なら、クアラルンプールから出発してギリギリで飛べる距離」とみる。

 誰が、なぜ針路を変えたのか。テロ説や中国による自作自演説が流れ、マレーシア政府はハイジャックの可能性も含めて調査にあたってきた。15日にはザハリエ・シャー機長(53)の自宅が家宅捜索され、疑惑の目を向けられた。

「機長自らがハイジャック事件を起こした可能性もあると思います。そうなれば、世界でもまれに見る超レアケースですが…」と推理するのは、元警視庁刑事で犯罪心理学者の北芝健氏だ。

 MH370便は、8日未明に離陸。約50分後に南シナ海上空で消息を絶った。レーダーから機影が消え、通信装置も故意に切られたため、管制塔との通信が遮断された。行方がわからなくなった後も7時間近く飛行を続けていた可能性が指摘されている。

 ハイジャックならば、犯人から何らかの要求なり、犯行声明があってしかるべき。それが現時点では何もない。すべてをザハリエ機長が計画的に行っていたとしても謎は残るが、一連のミステリアスな航行には説明がつく。では機長の意図は何だったのか?

 北芝氏は「同性愛者のパイロットによるマレーシア政府への“究極の嫌がらせ”ではないでしょうか」との見方を示す。それを裏づけるのが、同機長をめぐる報道だ。

 16日付英紙「デーリー・ミラー」は、同機長が「DEMOCRACY IS DEAD(民主主義は死んだ)」とプリントされたTシャツを着ていたと掲載。複数の海外メディアは、ザハリエ機長が反体制派で、野党勢力を率いるアンワル元副首相(66)を強烈に支持していたとしている。

 そのアンワル氏には、不明機のフライト前日の7日、同性愛行為による異常性行為罪に問われた事件の控訴審で、無罪の一審判決が破棄され、禁錮5年の実刑判決が下された。イスラム教徒が多いマレーシアでは同性愛自体が違法行為とみなされている。ザハリエ機長自身が同性愛者か否かは不明だが、判決に憤りを示したという。同機長の関係者はそれを強く否定している。

「機長はラジカルな人なのでは。控訴審の判決に不満を持ち、マレーシア政府を窮地に陥れるため“究極の嫌がらせ”として、ハイジャックすることを選んだのかも」(北芝氏)

 機長に疑いの目を向けているのは北芝氏だけではない。米下院国土安全保障委員会のキング議員(共和党)は16日、米ABCテレビで「最初から機長と副操縦士に注目すべきだった」と、捜査が遅いマレーシア当局を批判していた。

 ザハリエ機長の自宅にはフライトシミュレーターがあり、周到にハイジャックプランを練ることもできたとみられる。

 通信が絶たれた機内で何があったのか。捜索にあたる各国は25日も残骸の可能性のある物体の発見、回収に全力を挙げた。