先週末に懲役9年の実刑判決が下されたオウム真理教元幹部平田信被告(48)が麻原彰晃(本名松本智津夫=59)死刑囚に帰依する前、人生の師として弟子入りを考えていた人物の存在が明らかになった。その1人が武術家の甲野善紀氏(65)。2002年にプロ野球巨人投手の桑田真澄氏(45)を再生させ、俳優武田鉄矢(64)も教えに傾倒したといわれる。その甲野氏が本紙を通して平田被告に「素の自分と向き合うこと」を勧め、今後の生き方を指南した。

平田被告は大学卒業後に出家した経緯をこう語っている。

「人生の師を探そうと思い、麻原はその1人だった。人生の師と考えていたのは5~6人。現在は有名ですが、当時は無名だった武術家の甲野善紀さんなどを考えていた」


 麻原死刑囚を選んだ理由は偶然だった。「たまたま神仙の会(=オウムの前身)が交通の便が良くて一番先に行ってしまった」。その結果、17年間も逃亡した上に9年の懲役刑。出所後も先の見えない生活が待つことになる。他の師を選んでいれば、全く違った人生だったはずだ。


 日本を代表する武術家の甲野氏は、独自の身体活用法が各界の著名人から支持を受けている。現役時代の桑田氏が教えを受け、復活したのは有名な話で、漫画家井上雄彦氏(47)も人気漫画「バガボンド」の登場人物に甲野氏の考えを語らせていることで知られる。「KinKi Kids」堂本剛(34)も昨年BS放送で対談している。


 武術、宗教、精神世界に造詣が深い甲野氏だが、世間を騒がせたオウム逃亡犯の口から自らの名前が出たことには「びっくりした。20年以上前は私はまだ本を2冊出したくらいだから、確かにほとんど無名だった。平田被告が私に関心を持っていたとは…」とさすがに驚きを隠せない。

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オウム事件を予見していた甲野氏

 実は甲野氏はオウム事件を予見していた。

「現在の環境問題などを見ていれば、生物の本能として人間全体を大規模に減らそうとする衝動が生まれてくるのではないかと思っていたので、あのような時代にああいう事件が起こるのは一つの必然だったのでは」


 一方で、オウムに入った平田被告には「いかに生きるべきかをマジメに考える人で、この世の中を何とか良くしたいと新宗教に入る人は出てくる。それが平田被告の場合、オウムだったということだと思う」と理解を示してもみせた。


 確かに、平田被告は「(小学生ですでに)自分がこの世にいない。世界の実在に対して疑問を持っていた」と法廷で語った。甲野氏は「今後、何にも属さず、深く自分を見つめて、自分が今まさに生きていることそのものの必然性を自覚できれば、そこから自分はこれからどう生きようかという方向も見えてくると思う。素になって、今自分があること、そのものを見つめることをすすめたい」と時折、沈思黙考しながら話した。そして、そうなったときに出る遺族や社会への謝罪の言葉こそが、本当の謝罪となるのではないかとも。


 その境地は「悟り」とも言い換えられる。「もちろん、どこまで行けるかわからないが、それに向かって歩むことが平田被告自身を救うことにもなるだろうし、犠牲となった人の供養にもなると思う」と結んだ。


 甲野氏は平田被告が懲役刑を終えて訪ねてきた場合には、会って話をしてもいいとも明言した。