「アクリフーズ」群馬工場(群馬県大泉町)の冷凍食品農薬混入事件で、捜査に当たった県警太田署と太田市関係者の脳裏には、14年前に同じ地域で起きた工場爆発事故があったという。どういうことか。

 逮捕から4日後、容疑を認める供述を始めた契約社員阿部利樹容疑者(49)だが、肝心の農薬は見つかっていない。「家にあった農薬を作業服の腕カバーに隠して持ち込んだ。すべて1人でやった」と供述しているが、待遇に不満を持つ社員は同容疑者だけではないだろう。
 いまだに“複数犯説”もささやかれる。物的証拠をつかめない警察が「焦った」との指摘もある。

 そんな指摘が出る裏には、2000年に同市で起きた化学メーカー「日進化工工場爆発事故」がある。60代の元社員が振り返る。

「ヒドロキシルアミンの蒸留塔で大規模な『爆合』(爆発)が起きた。すさまじい衝撃で、震度2の揺れと衝撃波が発生。近隣の役場の窓ガラスが割れた。私の同僚が4人死んだ」

 このときの捜査も太田署だったが「事故の原因の詳細や、意図的な爆発だったかどうかなどがわからず、立件もされなかった」(前同)。当時、県内でもベスト10に入る高額納税企業だった日進社は撤退した。

 地元関係者は「功績を上げられなかった警察は『同じような地元工場の事件では、必ず犯人を捕まえる』と意気込んでいた。県や市も不景気が続く今、アクリの工場を失うわけにはいかない。逮捕者が出なければ、最悪の場合は工場閉鎖もあり得たが、犯人逮捕、企業トップの辞任で回避できた。地元では『本当に犯人なのかな?』という見方もあるが、それよりも雇用先を保つことができてホッとしているというのが本音だ」と話す。

 逮捕翌日には大泉町が工場再開支援を発表。その早さからも工場が地元にとっていかに重要かがわかる。「このまま淡々と裁判手続きが進んで、何事もなかったようにするのが一番だ」と同関係者は話している。