アクリフーズ群馬工場(群馬県大泉町)の冷凍食品農薬混入事件で、偽計業務妨害容疑で25日に逮捕された工場契約社員阿部利樹容疑者(49)が、農薬検出が発表された昨年12月29日以降、混入について「いくらでもできる」と同僚に話していたことが27日、工場関係者への取材で分かった。群馬県警は26日、阿部容疑者と同じピザの製造ラインで働いていた従業員らから話を聴き、工場内で不審な様子がなかったか捜査している。


 工場関係者によると、阿部容疑者は行方不明となる今月14日まで通常通り出勤し、回収製品の検査作業をしていた。休憩時間に同僚と雑談し「やれないことはない。いくらでもできるよな」と発言していた。しきりに携帯電話でニュースを確認する姿も目撃されているという。


 阿部容疑者が、休憩時間に担当外の製造ラインに出入りする姿がたびたび目撃されていたことも捜査関係者らへの取材で判明。県警は、ひそかに農薬を持ち込み、休憩時間を利用して工場内を行き来しながら複数の製品に農薬「マラチオン」を混入させたとみて捜査している。同容疑者は「覚えていない」と話しているという。


 逮捕容疑は、昨年10月3~7日ごろ、4製品にマラチオンを混入した疑い。県警によると、阿部容疑者はピザの製造担当だったが、マラチオンはピザのほか、コロッケとフライの製品からも検出された。


 アクリ社によると、工場の製造ラインはピザ、グラタン、コロッケなど5種類。ラインごとに扉が付いた部屋に分かれているが、持ち場以外への立ち入りを制限する施錠などのシステムはなく、従業員は各部屋を自由に通ることができた。製品を包装、箱詰めする「包装室」への行き来も可能だったという。


 捜査関係者や工場関係者によると、阿部容疑者は自分の休憩時に、ピザ以外の稼働中のラインに頻繁に出入りして同僚と雑談し、冷凍前の製品をつまみ食いすることもあったという。作業中に持ち場を離れることは難しく、県警は休憩時間に農薬を混入した疑いが強いとみている。アクリ社は工場内に私物を持ち込まないよう指導していたが、ボディーチェックなどはしていない。工場の監視カメラは製造ラインには設置されてなかった。ある従業員は取材に「作業着の内側に隠せば小瓶程度は持ち込める」と話した。

<次ページ>気になる犯人の人物像とは?


 阿部容疑者逮捕で事件解明が待たれるが、その人物像や動機もまだ明らかになっていない。


 元警視庁刑事で犯罪心理学者の北芝健氏は「社会に対する適応能力に欠けた人物ではないか」とみる。


「趣味のバイクへの傾倒がかなり強い。バイクの運転は危険性が高いため全神経をとがらせることが必要とされるが、阿部容疑者の場合、バイクの運転へ神経をとがらせすぎて、他のことへの思考が回らなくなってしまったのでは」


 阿部容疑者はスクーター好きとして知られ、愛好者向けの雑誌が企画する撮影会にたびたび参加していた。給与など待遇に不満をもらすこともあった。給与は2年前から上がっておらず、今年度の賞与も減額されていたという。


「バイクの趣味はお金がかかるのに、使えるお金が減ってきていた。契約社員の身で、しかもボーナスが減ったというし、待遇への不満…、いや会社に対しての怒りがあったのでしょう。それがテロ行為につながったのではないか」(北芝氏)


 もちろんすべてのバイカーが“暴走”するわけではない。北芝氏は事件の態様について「大変幼稚で知恵足らず。科学捜査がどれくらいの結果を出すか、知らなかったのでしょう。80人くらいの従業員にあって、誰がやったか分かるような過程で農薬を混入するのは判断能力が欠けていると言わざるを得ない」とブッタ切った。