雪の降らない地域の人にはなじみのない日々の重労働が雪かき。これをやらないことには無事に冬を越せないが、この作業は想像を絶する過酷さで、苦労が絶えない。一歩間違えると、ご近所付き合いを悪化させることにもなりかねない。そんな「恐ろしい実例」が12日、山形県で起きた。雪かきが原因で死者が出る事態になったのだ。いったい、雪によるどんなトラブルが発生したのか?
 
 豪雪地帯では、ほとんどの人たちのストレスの種になっているのが、雪かきだ。

「自宅のほうに雪を寄せられて、頭にきた」と隣人と口論になり、無職斎藤忠治さん(87)を倒して顔や口などにけがをさせたとして、酒田市の無職伊藤博容疑者(63)が12日、山形県警酒田署に逮捕された。斎藤さんは病院に搬送され、その後、死亡が確認された。雪かきひとつで人が死ぬ事態になったことに、同署幹部も「除雪トラブルは日常茶飯事だが、死亡者が出るとは…」と驚きを隠せない。

 雪の降らない土地に住む人にはピンとこないだろうが、トラブルの原因は日常生活の中に潜んでいる。例えば事件の起きた酒田市では、通勤に車を使う人も多い。となると出勤前には当然、雪かきが必要だ。

「朝の20分は、車庫と玄関前の道路の雪かきが日課」(山形県民)だが、自分の家の前だけやればよいわけではない。

「早く始めたほうが、自宅とお隣さんの家の境目の部分もやる。いろいろ気を使いますよ」(同)

 地域の共同生活が重要視されているので、気配りが不足すると「自分とこだけやって協力する姿勢がない」と陰口を叩かれてしまうのだ。

 隣人が道路の雪かきをしないと、自分の車を出せない場合もある。「隣に引っ越してきた家族が、雪かきをやらないが、車のナンバーが『893』で、見た目も明らかに怖いから何も言えない。泣く泣く私がその家の前もやってる」(福島県民)というめぐり合わせの悪い人も。

 ボランティアを募る自治体もあるが、応募してきた若者との間でもトラブルは起こる。

 北海道のある村の住民は「ここでは1回数千円で村の若者が雪かきをする。ボランティアが来ると、冬の大事な収入源を奪われるのでケンカになるんですよ」と話す。さらにはこんな悲惨なことも。「ご近所さんちのワンちゃんが冬に行方不明になった。春になってご町内の家から見つかった。そこはズボラで雪かきをほとんどしない。屋根から落ちた雪に埋まって死んでいたんです」(前出の秋田県民)

 降雪が珍しくなった東京都心部などでは考えにくいトラブルだが、豪雪地帯では想像以上に深刻な問題となっている。