「座間9人殺害」模倣事件を防げ 自殺志願者は本当に増えたのか

2020年10月01日 11時00分

逮捕後に送検された当時の白石被告(写真右)と事故現場のアパート

 神奈川県座間市で2017年に発覚した9人殺害事件で、強盗強制性交殺人などの罪に問われた白石隆浩被告(29)の初公判が30日、東京地裁立川支部(矢野直邦裁判長)で開かれた。白石被告が起訴内容を認めた一方、弁護側は「被害者が殺害されることに同意していた承諾殺人罪だ」と主張。刑事責任能力についても争うという。ツイッターを悪用した猟奇的な事件は日本中に衝撃を与えたが、その後の対策はいまだに万全とはなっていない。

 事件の概要はこうだ。白石被告は2017年8月からツイッターで自殺願望をほのめかしている女性のアカウントに接触。「一緒に死のう」などと自宅アパートに呼び出し、性的暴行の後に殺害。10月までの間に15~26歳(いずれも当時)の女性8人が殺害された。また、被害者の一人である21歳女性を探しに白石被告を訪ねた知人男性も殺害された。

 検察側は白石被告がカネを奪えて性欲も満たせるとして事件を繰り返したと指摘。「自己の欲望の充足を目的とした計画的犯行で卑劣かつ残虐だ」と訴えた。

 対する弁護側は、被害者らは自発的に白石被告に会いに来たと指摘し、「死について被告の手で実現されることも想定した上だった」と、より罪の軽い承諾殺人罪が成立するとした。また、刑事責任能力でも争う構えだ。

 白石被告は複数のツイッターアカウントを使い「首吊(つ)り士」とも名乗っていたという。自殺志願者と連絡を取り合い、ターゲットを物色していた。白石被告は後の取り調べで「本当に死のうと考えている人はいなかった」とも話していた。

 この事件が社会、とりわけネットかいわいに与えた衝撃は大きい。

 SNS事情に詳しい関係者は「座間事件の後、残念ながら自殺願望のアカウントがむしろ増えたんですよ。それを狙う下心丸出しの男も増えました」と明かす。この事件の手口をまねた事件があったのは確かだ。

 増えたのは本当なのか。ITジャーナリストの井上トシユキ氏は「厳密には、自殺願望の書き込みが増えたということはありません。事件を受けてそのような書き込みをリツイートして拡散することが増えたのです。それによって自殺願望の書き込みを目立たせて、インターネット・ホットラインセンターへの通報を促すことになったり、専門家が気づきやすくなり相談窓口を返信したりなど、対処しやすくしているのです」と解説した。

 ネット上の有害情報の通報を受ける同センターは、自殺関連の情報も扱う。座間事件以降、政府としても民間と協力して再発防止に力を入れている。ネット利用者たちも拡散や通報で悲劇を防ごうとしており、座間事件をきっかけに明らかに良い方向へ変化している。
 しかし、自殺をほのめかす書き込みがなくなっているわけではない。

「『自殺』という言葉をNGワードにしてしまうと検閲になってしまう。今できるのは、自殺をほのめかす書き込みを見つけたら、カウンセラーなど専門家になんとか誘導することです。何かしらの規制があってもいいが、妙案がないのです」(井上氏)
 書き込みを発見したら逐一対処しているのが現状だという。

 本紙既報のように、新型コロナ禍の今年は自殺者の数が7月までは減少、例年と同レベルで推移していた。しかし、8月は全国で1849人で、昨年同月比246人増と、同月から増加傾向に転じた可能性が指摘されている。芸能界でも自殺とみられる死の連鎖が続いている。

 9人もの命が奪われた事件の初公判を機に、追い詰められている人を救う手立てを日本中が考えねばならない。