【タイ無差別テロ】凶行軍人に射撃大会受賞歴

2020年02月10日 16時20分

学生らを避難させる治安部隊員(ロイター)

 恐怖の乱射劇がネットで生中継された。8日午後、タイ東北部ナコンラチャシマの中心部にある大型ショッピングモールで起きた銃の乱射事件。29人が死亡、58人が負傷する惨事を引き起こした犯人は治安部隊によって射殺されたが、現役軍人による凶行は今後、タイの政情不安にもつながりかねない。

 犯人は地元の軍施設に勤務する陸軍の一等曹長ジャカパン・トンマ容疑者(32)。銃を持って上官の自宅に殴りこみ殺害した後に、兵舎などの軍施設で乱射を繰り返し、また多数の重火器を持ち出した。

 タイ軍によれば、トンマ容疑者によって盗まれたのは、ドイツ製のアサルトライフルHK33が2丁、米国製の機関銃M60、さらに数百発の銃弾を軍用ハンヴィー(高機動多用途装輪車両)に乗せて逃走し、ナコンラチャシマ市街にあるモール「ターミナル21」に乱入。その途中でもモールの周辺でバイクに乗った人々などに対し無差別に発砲し殺害を続けた。

 トンマ容疑者はガスシリンダーを爆発させてモールの一部を炎上させるなど、破壊と殺りくを繰り返しながら4階に侵入。そこで16人の人質を取って立てこもった。治安部隊はモール内に取り残された人々の救出を進める一方、隣県に住むトンマ容疑者の母親を探し出し、現場に連行。母親は投降するよう息子に呼びかけるものの応じず、籠城は9日の朝まで続いた。

 その間、トンマ容疑者はフェイスブックでライブ中継を行っている。モールの中を逃げまどう人々が生々しく映し出されているほか、「手が震えている」「もう疲れた」「投降したほうがいいだろうか」「誰も死から逃れられない」「人から盗んだ金で儲けやがって。その金を地獄にも持っていけると思っているのか」などとメッセージも投稿した。

 しかし、このライブ映像の拡散が進みそうになると、フェイスブックの運営はトンマ容疑者のアカウントを削除した。

「ナコンラチャシマはバンコクから200キロほど離れたイサーンと呼ばれるタイ東北部の中心地。近郊には工業団地もあり、精密機械、プラスチック製品、食品加工など70社ほどの日系企業が進出、300人ほどの日本人が暮らしているとみられる。現地日本人会もある。ターミナル21は彼ら在住日本人もよく足を運ぶ場所だが、幸いにも巻き込まれた人はいなかった」(記者)

 9日の朝9時ごろになると、タイ警察の特殊部隊「ハヌマーン(ヒンズー教の神話における猿の神)」がバンコクからヘリコプターで現地に入り、現場に突入。激しい銃撃戦となった。射撃大会での受賞歴もあるというトンマ容疑者を地階のスーパーマーケットに追い詰め、射殺した。

 プラユット首相は負傷者が入院している病院を訪問し、事件について詳しい調査を進めると話す一方、緊急手術に必要な献血に応じた市民に感謝の意を表した。

 犯行の動機についてはまだ不明だが、現地紙「タイラット」など複数のタイメディアは、トンマ容疑者は最初に殺害した上官との間で土地の売買を巡って金銭トラブルがあったことを報じている。

 昨年3月の総選挙によってタイは民政に移管したものの、実質的に権力を握っているのは変わらず軍だ。政権トップのプラユット氏も陸軍大将の出身で、2014年にクーデターを起こし首相の座に就いた。5年以上にわたり独裁的に政権を掌握し、また経済の不調も続いていることからプラユット首相に対する不満も積もってきている。そこにきて軍人の「無差別テロ」となれば、政権のかじ取りにも大きな影響があるかもしれない。