45人殺傷・植松被告 やまゆり園事件初公判でとんだ暴走劇・弁護人ともズレ

2020年01月09日 16時00分

 被告VS弁護側という異例の展開が見られるかもしれない。神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年7月に入所者ら45人が殺傷された事件で、殺人罪などに問われた元職員の植松聖被告(29)の裁判員裁判初公判が8日に横浜地裁で行われたが、同被告が奇行に走り、今後の進行が懸念されている。「皆さまに深くおわびします」と言った後に突然暴れ、刑務官4人に制止され、その後は姿を見せず。弁護側は心神喪失状態による無罪を主張しているが、植松被告本人の考えとはズレが生じている。

 黒いスーツの植松被告は自分の名前を答え、起訴内容に間違いがあるかどうかについても「ありません」と認めた。しかし、直後に事態は急変。

 弁護側から被告の発言を求められ裁判長が許可。植松被告は証言台に立ち「皆さまに深くおわびします」と話したかと思うと、口の中に指を入れるしぐさをしてもがいたり、うめいたり“暴走”。

 刑務官が飛びかかって制止、開廷して約15分というのに休廷になった。傍聴人らはぼうぜんとするばかり。横浜地裁は「被告が小指をかみ切ろうとしたため」と理由を明かしたが、目的は不明だ。再開されても植松被告の姿は法廷になかった。

 公判ではほとんどの被害者の名前が伏せられる予定で、遺族が座る席にもついたてが用意される異例の措置が取られた。そんな状況で植松被告が奇行、出廷せずとはまさに想定外、波乱含みだ。

 起訴内容は16年7月26日に施設の入所者ら43人を刃物で刺し、19人を殺害。24人が重軽傷で、さらに職員2人を負傷させたというもの。植松被告はこれを認めており、争点は刑事責任能力の有無になる。捜査段階の精神鑑定では「自己愛性パーソナリティー障害」と診断されていた。また、事件前には「大麻精神病」と診断されたことがある。

 検察側は完全責任能力があったとしているが、弁護側は「被告は大麻精神病により本来の人格ではなく別人になった結果、事件が起きた」と心神喪失状態だったとして無罪を主張している。

 ところが、無罪主張は必ずしも植松被告の主張とは重ならない。逮捕後から一貫して植松被告は「重度障害者は不幸を生む。社会からいなくなった方がいい」などと偏った主張を続け、犯行を正当化してきた。

 一方、弁護側の大麻による心神喪失との主張については「刑が軽くなるなら何でもいい」と公判前に語っており、関心を持っていない。

 被告と弁護側の主張に生じたズレ。元衆院議員の横粂勝仁弁護士は「基本的には被告の意思に基づいて弁護側の主張が行われます」とした上で「弁護人が被告と会うなかで、当時だけではなく今も責任能力がないのではないかと判断した場合は本人の意思に反して『責任能力がない』と主張することはあり得ます」と指摘する。

 このままいけば、法廷で責任能力をめぐって被告と弁護側で対立することも考えられる。

「被告人質問で被告と弁護側のズレが出てくるかもしれません。弁護側は大麻の影響と言いたいけど、被告が『大麻は関係ない』と言って困る状況が考えられる。慎重に打ち合わせをすることになるでしょう」(横粂氏)

 この打ち合わせが問題だ。植松被告が暴走したきっかけは、弁護側から被告の発言を求めたことだった。

「このタイミングで謝罪することは打ち合わせしていたと思います。しかし、暴れることまでは戦略ではなかったのではないか。被告がいざ法廷に出てきたときに、裁判という現実にパニックになることはある」(横粂氏)

 植松被告に限っては、打ち合わせをしてもその通りにいくとは限らないのだ。

 弁護人は閉廷後、「打ち合わせはしてあったのか」「ひと言は被告が求めていたのか」「なぜ午後は出てこなかったのか」「次回は出てくるのか」などと報道陣から質問を浴びせかけられるもノーコメントを貫いた。

 植松被告が法廷で事件に向き合う日は来るのか。