「台風出社」は美徳なのか?

2019年09月10日 16時20分

関東地方を襲った台風15号

 8日夜から9日午前にかけ、関東地方を襲った台風15号の爪痕はすさまじく、各地で大きな影響が出た。千葉県では猛暑のなか大停電が発生したほか、建造物の倒壊も。特に影響があったのは交通網だ。計画運休発表があったにもかかわらず、影響が出たのは「勤勉な国民性」もその一因といわれる。これからの働き方はどうすべきか、大人力とテレワーク(在宅ワーク)が議論されそうだ。

 9日午前5時前に千葉市付近に上陸した台風15号により、関東南部は記録的な暴風に見舞われた。JR東日本は8日夕、9日始発からの計画運休を発表。だが、運転再開は計画通りにはいかなかった。山手線は午前10時15分まで運休、各鉄道会社でも遅れや運休が相次ぎ、約277万7000人に影響が及んだ。成田空港は鉄道・バス運休で、約1万人の利用者が出られなくなり、深夜まで“陸の孤島”と化した。

 千葉県では大喜多町で倒木撤去作業中の87歳の男性が死亡し、市原市のゴルフ練習場の鉄塔が倒れ、住宅を破壊、住人が負傷した。県内のある病院では停電が9日夕まで続いた。非常用電源は人工呼吸器など生存に必須なものだけに使用した。「予定のオペは中止。採血もレントゲン撮影もできない。エレベーターも停止し、患者さんの食事は職員が8階まではしごリレーで運んだ」と関係者。

 多くの人が体感したのは、乗車率100%を超えた満員電車だろう。運行再開された各地の駅には人が殺到。千葉・津田沼駅では2時間以上の入場待ちの列ができた。ノロノロ運行の満員電車が昼過ぎまで続く路線もあった。そこで話題になったのが「そこまでして会社に行かなければならないのか」という議論だ。

 ツイッターでは、会社から「出社は自己判断」と指示され、困惑する声も。「大人力検定」で知られるコラムニストの石原壮一郎氏は「会社の言う自己判断は責任回避の言い方。何かあったら本人のせいですから」と指摘。自己判断と言われたら、ほとんどのサラリーマンは事実上の出社指示と受け取る。休んだらマイナス評価を受けかねないからだ。

「どうしても会社に行かないといけない人はいいのですが、駅であれだけの数の人が並んでいたのは、会社に行っても行かなくてもいい人までいたから。出社しないと白い目で見られるというのでしょう。しかし、空気を読む=大人力が高いというわけではありません」(石原氏)

 台風でも出社することが美徳とされがちだが、今後は変わりそうだ。

「大人力で一番大事なのはストレスや他人の攻撃から自分を守ること。『なんで台風で出社するのか』と思うのなら、休みの電話を会社にすることが大人としての勇気。働き方改革の第一歩は台風=休みにすることですね」と石原氏は語る。

 さらに話題になったのは「テレワーク」の有用性だ。東京五輪期間中の交通機関の混雑回避を念頭に経済界も推進しているが、テレワーク活用のアウトソーシングを手掛ける「キャリア・マム」の代表取締役、堤香苗氏はなかなか普及しない背景をこう解説する。

「管理職が導入を決断できないのは、彼(彼女)が平社員のときに、上司の見えないところでサボっていたから。『見えない場所で人はサボる』という自分の体験があるから、日本企業での推進は遅いのです」

 日本の会社での社員の評価基準はこれまで「仕事の結果」だけでなく「意欲や進め方」までもが対象になっていた。

「テレワークになると評価されるのは『人間』ではなく『仕事』だけ。普及して出社人数が減ったとき、一番困るのは『人間』で仕事してきた人です」。能力は低いのにゴマすり上手だったり、残業を“奉公”と勘違いしてきた人は、上司にアピールできなくなる。そんな人たちが普及にブレーキをかけているという。

「テレワークで経済は間違いなく良くなります。無駄な時間がなくなり力のない人が脱落する。浮いた時間で副業すれば経済が潤う。子育てする人も介護する人も働け、国民総生産は上がります」

 今回の台風の教訓を生かせるか。