衝突脱線・京急が絶対譲らない“安全哲学”先頭車両に必ずモーター 重い台車で転覆を防ぐ

2019年09月06日 16時00分

 横浜市神奈川区の京浜急行線の神奈川新町―仲木戸間の踏切で5日、下り快速特急電車(8両編成、乗客約500人)と大型トラックが衝突した。先頭から3両目までの車両が脱線し、トラックは炎上。トラックの本橋道雄運転手(67)が電車の下敷きになり死亡し、乗客と運転士、車掌の計33人が軽傷を負った。神奈川県警はトラック側に過失があったとみて捜査。より多くの死傷者が出てもおかしくないような事故にもかかわらず、被害が「最小限」レベルにとどまった背景に、専門家は京急の“安全哲学”を指摘した。

 事故が起きたのは5日午前11時40分ごろ。神奈川県警によると、線路沿いの狭い道路から13トントラックが、右折して踏切に進入したが曲がり切れず、ハンドルを切り直しているうちに立ち往生して、電車が衝突したとみられる。トラックは千葉県香取市の運送会社のもので、横浜市から千葉県成田市に向けてレモンとオレンジなどを運んでいる途中だった。

 京浜急行電鉄によると、現場付近では通常、快特電車は時速約120キロで走行している。現場の踏切で「障害物検知装置」が作動し、信号が点滅していたのに気づいた運転士が非常ブレーキをかけたが、間に合わなかったという。

 2005年に107人が死亡、562人が重軽傷を負った兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故のように、高速で電車が脱線した場合、多くの犠牲者が出る大惨事は常に隣り合わせだ。それでも今回の事故では、不幸中の幸いと言うべきか、乗客乗員に死者は出なかった。車両は先頭から3両目までが脱線したものの横転はせず。前面の窓も激しくひび割れてはいるが、原形をとどめている。

 今回の車両は前面が「普通鋼」で、ステンレスやアルミ合金ではなかったため大破を免れた。

 鉄道会社に30年間勤務した経験を持つ鉄道コンサルタントの至道薫氏は「京急は、国鉄の三河島事故(1962年、死傷者456人)や鶴見事故(63年、同281人)を教訓に、これだけは譲れないという考えを持っていて、他の鉄道会社より、技術面での安全に対する思い入れが全然違う。京急だったから被害が少なかったのは、間違いない」と指摘する。

 その一つが先頭車両を重くすることだという。

「先頭車両にモーターをつけない鉄道会社は多いんです。先頭車には運転台があるし、走らせるためのモーターはまた別の車両と、それぞれの車両に機能を持たせることを考えている。でも、京急は歴史的に必ず先頭車にモーターをつけてきた」

 先頭車両が重ければ、例えば土砂に乗り上げても、脱線はしても転覆はしないのだという。

「今回の先頭車は18メートルで33トンあるんです。JR山手線のE235系は20メートルで30トン。先頭が安全だと後ろの車両は安全なんです。相互乗り入れを受け入れる際、都営浅草線や京成線にも、その方針を譲らなかった」

 車両の台車の構造も被害を“最小限”にとどめた理由だという。台車にはボルスタ台車とボルスタレス台車があり、前者は安定性が増す一方で、構造が複雑で重量も増す。ボルスタレスにすることで軽量化、省電力化と費用の削減が可能なため、電鉄会社ではボルスタレス台車の採用が多い。

「京急はボルスタ台車の採用にこだわった。台車が軽くなると重心が上がる。そうなると、車体の部分も軽くしないといけないので、車体は当然きゃしゃになる。今回の車両がボルスタレスだったら、転覆して反対の線路まで車体だけが飛んでいくこともあり得たかも」

 さらに、線路幅の広い標準軌の採用も、転覆を防ぎ被害を最小限にとどめる結果となった。至道氏は「脱線はしても転覆しないっていうのは京急の一つの哲学。安全哲学に“頑固”と言えるくらいのこだわりがある京急だからこそのファインプレーですよ」と話した。

 とはいえ、鉄道と車の接触事故は多い。線路をすべて高架化するのは工事期間や費用の問題もあり、簡単にいかない。
 至道氏は「踏切をゼロにもできないし、鉄道会社はもっと『いざというときは、遮断機を折ってください』と啓蒙してもいいかもしれない」。

 被害に遭った方々の一日も早い回復が望まれるが、高速で衝突したにもかかわらず死者が出なかったのは、京急だったからと言えそうだ。