引きこもり事件“負の連鎖”は続くのか

2019年06月04日 07時15分

 先月28日に起きた“川崎殺傷事件”以降、負の連鎖が生じている。1日には元農林水産事務次官の熊沢英昭容疑者(76)が、引きこもりぎみの長男(44)を刺して死なせ、殺人未遂の疑いで警視庁練馬署に現行犯逮捕された。警視庁は容疑を殺人に切り替えて調べている。また、先月31日、福岡市では「仕事をしろ」と、とがめられた40代の無職の男が母と妹を襲撃。自宅に火を付け、自身は割腹自殺した。相次ぐ引きこもり絡みの事件は偶然なのか、それとも――。

「人を殺すような人ではないと思った」

 近隣住民がそう声を揃えるのは、長男を殺害した熊沢容疑者。2001年に農水事務次官に就任し、BSE(牛海綿状脳症)問題の責任を問われる形で02年に退官した。

 事件発生は1日の午後3時40分ごろ。東京都練馬区早宮の住宅で「息子を刺し殺した」と熊沢容疑者から110番があった。殺されたのは長男で無職の英一郎さん。同容疑者は妻と英一郎さんの3人暮らしで、警察官の到着時、妻は不在だった。

 警察の調べに熊沢容疑者は英一郎さんから日常的に暴力を受け「命の危険を感じた」と供述している。

 英一郎さんは引きこもりがちで、過去にツイッターで「勝手に親の都合で産んだんだから死ぬ最期の1秒まで子供に責任を持てと言いたいんだ私は」と発言していたとみられる。

 またオンラインゲーム「ドラゴンクエスト10」に没頭する名物ユーザーでもあり、ログインしたまま事件に遭遇したため、ゲーム内では「ステラ」の名前でいまも存在。他のユーザーが囲んで、蘇生の呪文「ザオラル」を唱えまくる事態となっている。

 一方で熊沢容疑者はこんな供述もしている。

「周囲に迷惑を掛けるといけないと思った」

 英一郎さんは事件の数時間前、近所の小学校であった運動会の音がうるさいと腹を立てていたという。「周囲に迷惑」とは英一郎さんの“凶暴性”が、小学生に向かうことを恐れていたとも考えられる。

 逆のケースもあった。先月31日、福岡市博多区の市営団地で40代の息子が75歳の母親をハンマーのようなもので殴り、41歳の妹を刃物で刺し、重傷を負わせる事件が起きた。息子はその後、ふとんに火を付け、割腹自殺した可能性がある。男は死亡したが、県警博多署は殺人未遂容疑で調べている。

 犯行のトリガー(引き金)となったのは、母親によると「引きこもりの息子に『仕事をしなさい』と言ったら口論になり、殴られた」(母親)という。妹も「家に帰ってきたところ兄に刺された」と話している。

 2つの事件の共通ワードは「引きこもり」。この言葉がクローズアップされることになったのは、先月28日に発生し、児童ら20人が死傷した川崎市殺傷事件だ。犯人の岩崎隆一容疑者(51)は襲撃後、首を刺して自殺。同容疑者は複雑な家庭環境で育ち、30年以上、引きこもりのような生活を送っていたことから、ネット上では「引きこもり=犯罪予備軍」という空気が一部で形成された。

 これに「大人のひきこもり」(講談社現代新書)の著者でジャーナリストの池上正樹氏は「引きこもりが事件を起こすわけでは決してありません。むしろ、これ以上、傷付きたくない人たちが引きこもるのです。引きこもりが悪だという切り取りは非常に危険で、さらに彼らを追い込むことになります」と話す。

 池上氏によれば、引きこもりの人の攻撃性が向かうとすれば身内で、岩崎容疑者のように“外”に放出するのは「極めてレアケース」。大事なのは「犯行に至った(容疑者の)危機的状況を解明すること」だという。

 とはいえ、川崎の事件が2つの事件を誘発した可能性は否定できない。

「博多の事件も練馬の事件も、刺激されてしまったのは親の方です。川崎の事件を見て、いつも以上にきつく『仕事をしろ』と言ってしまったり、子供の将来に危機感を持ったのでしょう。今後もこうした事件は起きてくるかもしれません」

 池上氏いわく、子供の引きこもりで悩む親は、1人で抱え込むのではなく「同じ境遇の方たちで構成される家族会があるので、連絡を取ってほしい。大事なのは“こういう時はどうすればいい”という情報を集めることです」という。

 負の連鎖は続くのか――。