池袋・暴走87歳男の量刑 2人死亡10人負傷でも判例から実刑なしか

2019年04月25日 16時00分

 東京・池袋で高齢者が運転する乗用車が“暴走”し、自転車に乗っていた松永真菜さん(31)と長女莉子ちゃん(3)が死亡した事故は波紋を広げている。ほかに10人が負傷した事故で、運転していた旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(87)は今も入院中だ。警視庁は回復を待って自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)容疑で事情を聴く方針だが、専門家からは、起訴されて裁判になっても「執行猶予判決が出る見込み」。24日、告別式を終えた真菜さんの夫(32)は記者会見し「相応の罪を償ってほしい」と語ったが、遺族の思いは司法に届くか。

 亡くなった豊島区の真菜さんと長女莉子ちゃんの告別式が24日午前、都内で営まれた。午後には真菜さんの夫が会見し「最愛の妻と娘を突然失い、ただ、ただ涙することしかできず、絶望しています」と無念を語った。

 会見場には莉子ちゃんが七五三の時に撮った2人の遺影が置かれた。夫は別の写真2枚を報道機関に提供し「危険な運転をしそうになった人が2人を思い出し、思いとどまってくれるかもしれない」と理由を説明した。

 19日午後0時25分ごろに起きた事故では、運転していた飯塚元院長の車がガードレールにぶつかりながら、猛スピードで赤信号を通過して歩行者や自転車をはね飛ばした。「アクセルが戻らなくなった」と話しているというが、車に不具合は見つかっておらず、警視庁ではアクセルを踏み込むなどの運転ミスも視野に捜査している。

 夫は飯塚元院長の過失について「妻と娘は本当に優しく、人を恨むような性格ではありませんでした。私も2人を尊重し、そうしたいです。ですが、最愛の2人の命を奪ったという相応の罪を償ってほしいです」と吐露した。

 農機大手クボタの副社長も務めた飯塚元院長の輝かしい経歴と、逮捕されない状況から、ネット上などでは「上級国民は無罪」と根拠のない噂も流れている。相次ぐ高齢ドライバーの事故が社会問題化するだけに、加害者側への批判が噴出するのは当然。注目の刑事罰はどうなるのか。

 交通ジャーナリストの今井亮一氏(64)は過去の同様の判例から「男性が急に認知症となって裁判が受けられなくなることでもない限り、不起訴はないはず。罰金刑でなく、正式な裁判への起訴がなされるだろう。判決は禁錮3年、執行猶予5年というところじゃないか」と予想する。

 今井氏は数々の踏み間違い事故(被害者死亡は1件)の裁判を傍聴してきたが、実刑判決は1つもないという。「被告人が前科もない普通の人で、過失による死傷事故だったから」である。

 2011年に起きた東京都大田区の踏み間違い事故。女性ドライバー(70=当時)が駐車場を出て直進し、そのまま反対側のガードレールを突き破り、歩道に乗り上げ、下敷きになった歩行者の女性は死亡した。「被告人はセレブ風の女性で判決は禁錮3年、執行猶予5年。被害者が死亡していない他の踏み間違い事故はもっと軽い執行猶予判決だった」(今井氏)

 一方、懲役刑になるケースは「自分の運転の危険性を認識していた場合」だ。15年、豊島区の池袋駅東口付近で運転中に精神科医の男がてんかん発作を起こして意識障害となり、車を暴走させて1人を死傷させた。「てんかん発作が起きる危険性を承知で運転していたとして、危険運転致死傷罪の判決は懲役5年」(同)

 飯塚さんは「過失運転致死傷罪」に問われる見込みだ。今井氏は「高齢による認知や反応の衰えは危険運転致死傷罪に当たらない。当たらないけれども、衰えを自覚しながら運転したことが悪質と認定されたり、死亡者が1人でなく2人であることから、ぎりぎりで実刑判決もあり得るかもしれない」と語る。

 会見で夫は「少しでも不安がある人は運転しないという選択肢を考えてほしい。周囲の方々も働き掛けてほしい。家族の中に運転に不安のある人がいるなら、いま一度、家族内で考えてほしい。それが世の中に広がれば、犠牲者を減らせるかもしれない。そうすれば、妻と娘も少しは浮かばれるのではないかと思います」とも語った。

 今井氏も「おじいちゃんを刑務所にぶち込んでも、死刑にしても、何ら得るものはない。それよりも、踏み間違え事故を起こさせない現実的な仕組み作りを急ぐべき」と話している。