北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄・金正男氏が2017年にマレーシアの空港で殺害された事件で、マレーシア検察は14日、実行犯の一人でベトナム国籍のドアン・ティ・フオン被告(30)の起訴を取り下げないと判断した。

 もう一人の実行犯で、インドネシア国籍の女性(27)はインドネシア政府の強い働きかけが奏功し、11日に起訴が取り下げられ、釈放。フオン被告も続くとみられたが、検察は拒否。ただ、フオン被告の体調を考慮し、この日の被告人質問は4月1日に再延期された。

 現地メディアは「インドネシアと比べ、ベトナム政府の働きかけの度合いが弱かったのでは」と分析している。

 北朝鮮事情に詳しい拓殖大学主任研究員で元韓国国防省北朝鮮分析官の高永チョル氏は「フオン被告の起訴は取り下げられなかったが、時期を見て釈放するか、裁判が進んでいったとしても殺人罪の有罪で死刑にすることもないでしょう」とみる。

 フオン被告と釈放された女性の裁判は手続き時から完全非公開とされ、裁判所に出入りする際は防弾チョッキを着用し、周囲にはマシンガンを手にした武装警察官が警護に当たってきた。

「本来、北朝鮮の工作員は実行犯の2人の痕跡をなくすために暗殺した直後に行方不明や殺害するなど証拠をゼロにするところ。あるいは使い捨てでも大きな問題にはならないと考えたんでしょうが、ミステークだった。マレーシア当局は2人が北朝鮮側に殺害される恐れがあるとして、警戒していた」(高氏)

 フオン被告が釈放された場合、ややこしい事情が待ち受ける。既に逃走している北朝鮮の工作員とは、フオン被告の方が関わりが強かったとみられている。

「北朝鮮としてはフオン被告に消えてもらいたいが、ベトナムとの友好関係を考えれば、すぐに手を出すワケにはいかない。どうウヤムヤにできるかでしょう」(同)

 釈放されずに泣きじゃくっていたフオン被告だが、当面はマレーシア当局の管理下にいた方が身は安全のようだ。