ストーカーには何を言っても通用しない。客として通っていた美容院の男性店長につきまとったとして、ストーカー規制法違反の罪に問われた30代の女の裁判が東京地裁で進行中だ。婚姻歴があり、娘を持つ女の支離滅裂な主張に裁判官もキレかけた。

 先日、法廷で被害者の男性美容師が証言した。囲いで姿は見えない。腰まで届く黒髪が印象的な女の席から囲いまでは約20センチの近さ。愛する人の発言をひと言も漏らさぬよう、女はノートにペンを走らせていた。

 2013年の初来店が地獄の始まりだ。以来、毎日のように訪れた。デートの誘いも「誤解されないように断った」が、めげずに現れる被告に恐怖を感じて、通報したのが16年のこと。17年には2月と5月に2度の逮捕。さらに事件を重ねて、昨年2月の判決で執行猶予中の身だった。接近禁止命令も出されていた。

 男性は「気持ち悪い。怖い。いいかげんにして。もう目の前に来ないで。現れないように厳しく処罰して」と心からの思いを訴える。女はその部分のメモはとらず、無表情。都合の良い耳だ。

 本件の逮捕は昨年8月3日。店の外に現れ、店内をのぞいていた。疑いの余地もないストーカーだが、女は恋愛感情の存在を聞かれると「黙秘します」と答えた。動機が恋愛だと認めれば、ストーカー認定されてしまう。女が編み出した“迷案”は「専門学校の通信教育で美容師免許取得を目指していた。技術力向上のため」にのぞき見ていたとの主張だった。

 別の店にも行けよというツッコミにも「技術が魅力的なかたは1人」と動じない。「ミディアムの髪にドライヤーを当てる角度とか。カラーをハケで塗るスピードとか…」。うっとりとした口調で店長の仕事ぶりを説明する。その後も「黙秘」「分からない」を連発する女に、いら立つ裁判官は「実技は専門学校に入ってからの方がいいのでは」と眉間にシワを寄せる。女は「毎年10月から学習を始めたいけど、いつも5月に逮捕されてしまう」と答えた。実刑を受けてもまたやるのだろう。