“神々の里”と呼ばれる静かな山あいの集落で起きた凄惨な事件…その引き金になったのは――。26日、宮崎県高千穂町の3世代が住む民家で、女児(7)を含む家族ら6人が死亡しているのが見つかった。直後には近くの橋の下で、殺害された女児の父親が飛び降り自殺したとみられる遺体で発見された。前夜には家族内で喧嘩があり、第三者が仲裁するトラブルがあったというが、一家に何が起きたのか。

 観光客に人気の景勝地「高千穂峡」にほど近い宮崎県高千穂町押方にある、約10軒の家が集まる山間の小さな集落のうちの一軒が殺人事件の舞台になった。飯干保生さん(72)宅に「電話がつながらない」と、町外に住む三男が警察に相談したのは、26日午前10時20分ごろだった。午前11時ごろ、警察官が飯干さん宅を訪れると、そこには男女6人の無残な遺体があった。

 家の外に女性1人、中に男性3人と女性2人の計6人。うち5人は飯干さんと妻実穂子さん(66)、飯干さんの次男の妻美紀子さん(41)、次男夫婦の長男拓海さん(21)と長女唯さん(7)だった。残る1人は一家の知人で同県在住の松岡史晃さん(44)と判明した。

 小学生の女児まで犠牲になった現場を確認した県警は、複数の遺体に傷があったことなどから、すぐさま殺人事件と断定して捜査を進めた。行方が分からなくなっていた女児の父親で飯干さんの次男・昌大さん(42)の足取りを追跡すると、自宅からおよそ2・5キロ離れた「神都高千穂大橋」の付近で、次男の軽乗用車を発見。橋のかかる五ヶ瀬川で男性の遺体が見つかった。昌大さんが橋から飛び降りたとみて、身元の特定を急いでいる。飯干さんらの遺体には、ナタのようなもので付けられた傷や、首を絞められたような痕があるという。宮崎県では高千穂署管内で殺人事件発生を知らせる防犯情報が駆け巡り、住民らは不安な時間を過ごした。

 県警は昌大さんと家族の間にトラブルがあったとみて調べを進めているが、少なくとも5人の家族が殺害される悲惨な事件は、なかなか記憶にない。

 一度に複数の家族を手にかけた事件を振り返ってみる。愛知県豊川市で起きた2010年の家族5人死傷事件では、引きこもりの長男(30=当時、以下同)が父親(58)、めい(1)の2人を刺し殺し、めいの両親である弟夫妻と母親ら3人にも重傷を負わせた。長年引きこもりだった長男は、父親のクレジットカードを使ったネットでの買い物から数百万円の借金をつくっていた。買い物依存に悩まされた家族によってネット回線を止められたことで、怒りのスイッチが入って事件を起こした。12年、最高裁は被告の上告を棄却し、懲役30年とした1、2審判決が確定した。

 鹿児島県日置市では今年4月、無職の岩倉知広容疑者(38)が殺人容疑で逮捕された。祖母(89)、伯父の妻(69)、その姉(72)、父親(68)の4人と、近くに住む男性(47)を殺害した疑いで逮捕された。約15年間も引きこもり生活を送っていた岩倉容疑者は、路上で金属製の棒を持って振り回す姿がたびたび目撃されていた。殺された男性は、この奇行について警察に相談していた。

 捜査関係者は「高千穂で起きた事件では、県警は橋の下で死んでいた昌大さんが容疑者の可能性が高いとみている。もし犯人だとすれば、家族無理心中。事件前夜には、夫婦喧嘩か、あるいは家族内の何らかのトラブルがあり、第三者が仲裁に行ったという情報もある。このとき、自宅から怒鳴り声が聞こえたとの近隣住民の証言もある。関係したとみられる人物が亡くなっているため、慎重に捜査を進めていくことになるでしょう」と話している。