牛の生レバーを提供していたとして先日、京都の焼き肉店店主が逮捕された。メニューには「あかんやつ」と表記して“意味深”な雰囲気を漂わせていた。生レバーは人気メニューだったが、2012年から客に食べさせたり生食目的での販売が違法になった。しかし、そこは雑食文化の日本だ。本音と建前がある。1年前に同じく逮捕された焼き肉店の店長が本紙取材に生レバーが持つ矛盾を語った。

 京都府警は先月29日、生レバーを客に提供した上で加熱の必要性を伝えなかったとして、京都市中京区の焼き肉店「ちりとり鍋ごっこや」など3店舗の各経営者を食品衛生法違反容疑で逮捕した。

 同店のメニューには「あかんやつ(1100円)」と記載された品目があり、「生レバー」として客に提供した疑い。経営者は「焼かなあかんやつ」という意味と主張して否認している。3店で食中毒者は出ていない。

 牛の生レバーは食中毒による死者が出たことを端緒に2012年から生食用としての提供・販売が禁止されたが、昨年12月にも兵庫県加東市の焼き肉店「煌」で同様の生レバー事件が起きた(本紙既報)。今回、煌の店長・畠山裕紀氏(44)が逮捕の経験を踏まえて生レバーの是非を語ってくれた。

 煌では「焼レバー(480円)」とは別に、常連から頼まれたときだけ出す裏メニュー「上レバー(880円)」があった。事実上の生レバーで、畠山氏は「焼く必要はない」とごま油も出していた。

 県警の内偵を受けて、昨年12月4日に同法違反容疑で畠山氏は逮捕された。当初から容疑を認めたのは「生レバーを出したのは1回、2回じゃない。ずーっと! 店の代名詞や。ホルモンと肉で40品目あるけど、その8割は生でいける」と、品質への絶対的な自負があったからだ。

 40席で満員になる店で、半数の客が生レバーを頼むほど人気メニューだった。畠山氏は留置場で1日過ごして釈放され、保健所から無期限の営業停止処分(15日で解除)を受けた。罰金は30万円。警察は直近5年の伝票からレバーの売り上げを調べ、利益などを算出した。軽い罰則で済んだのは、アコギな商売をしていなかったことが判明したからだ。

「上レバー1人前の利益が280円。逮捕されるリスクと比較すれば、利益は低すぎる。儲けは考えていない」

 大々的に報じられたことで風評被害も心配されたが、営業再開日に畠山氏が見たのは満員の客だった。「たくさんの人が待っていてくれて涙が出ました」。皮肉なことに、生レバーを出すことができる店は、新鮮な肉を提供する店という認識が消費者の中にある。なんと、逮捕前より売り上げは3割もアップ。捜査を担当した警察官も「おいしい」と言ってくれたという。近く、新店舗を出す予定だ。

 もちろん、生レバーの提供はやめた。「うちは逮捕された本家本元の店だから、出すわけにはいかない。たまに『ある?』と言われるけど、きっぱりやめた。ホンマは出したいよ。ただ、ルールには従います」と言う。

 けじめはけじめ。しかし、今でも規制には疑問点を持っている。保健所には現行ルールについて事細かく質問したそうだ。

「過去、兵庫県で牛のレバーで死んだ人はいないそうです。本当にダメなら、フグの肝臓みたいに完全禁止にすればいい。でも、それはやらないという。フワフワしてるんですよ。うちは小売りの資格も持っていて、生レバーも販売できる。店頭で売ったものは、客の自己責任てのはおかしいやないですか」

 また、畠山氏が逮捕されたことで、世間的には店が「焼いてください」と言えば、免罪されることが認知された。この“抜け道”には警察も再考が必要だろう。儲けを出したい焼き肉店が粗悪で安価なレバーを「焼いてください」と出して、それが発覚したときに「私は『焼いて』と言いました」として“逃げ”を打てるからだ。それこそ、犠牲者を増やすことにつながってしまう。

「被害者を出そうとして提供していたわけじゃない。こっちから勧めたこともない。頼まれるから出していた」

 飲食業者は利益を出すことも目的だが、客を喜ばせることも仕事。法改正から6年が経過し、また再考が必要な時期ではないだろうか。