菅義偉官房長官は23日深夜、緊急記者会見を開き、内戦が続くシリアで2015年に行方不明になったジャーナリスト安田純平さん(44)とみられる男性が解放され、トルコに出国したと述べた。安田さんは埼玉県入間市出身。これまでシリアの武装勢力が身代金を求め、身柄を拘束していたとされる。行方不明になってから約3年4か月で、事件は大きな展開を迎えた。なぜ、いま解放されたのか。

 安田さんとみられる男性がトルコに出国したことを受け、日本政府は男性が滞在している南部アンタキヤに日本大使館員を派遣、本人であることの確認を急いだ。

 アンタキヤはシリア国境に近く、男性は入管施設にいるという。解放の経緯は明らかになっていないが、菅氏は緊急会見で、中東のカタールから解放情報がもたらされたと述べており、カタールが交渉を仲介したとみられる。

 反体制派に近いシリア人権監視団(英国)は23日「信頼できる筋」の情報として、安田さんはカタールとトルコが主導した交渉を経て4日前に解放されていたと発表した。日本政府は確認しておらず信ぴょう性は不明。

 安田さんの妻で歌手のMyuさんは「情報が本当なら『よく頑張ったね。みんなで待っていたよ』と伝えたい」と述べた。

 安田さんは取材のため15年6月、トルコ南部ハタイ県からシリア北西部イドリブ県に越境後、消息を絶った。16年3月に安田さんとみられる男性が英語でメッセージを読み上げる映像が公開。同年5月には「助けて」と日本語で書いた紙を示す画像も公開された。

 今年7月末、安田さんとみられる男性の映像がインターネット上に公開された。オレンジ色の服を着た安田さんは日本語で「私の名前はウマルです。韓国人です」と述べた上で「とてもひどい環境にいます。今すぐ助けてください」と訴えた。背後には銃を構えた黒装束の男2人が立っていた。また「今日の日付は2018年7月25日」と述べた。

 武装勢力は身代金交渉を求めて日本政府に接触を図っていたとされる。国際テロ組織アルカイダ系の過激派「ヌスラ戦線」(後にアルカイダから離脱し「シリア解放機構」を設立)が拘束していたとみられてきたが、分派した別組織に身柄が移ったとの情報も出ていた。

 安田さんはイラク戦争後のイラクを取材していた04年4月、地元の自警団に拘束され、3日後に解放されたことがある。その後もイラクやシリアで現地取材していた。

 イドリブ県は、シリア内戦で劣勢の反体制派にとって最後の拠点。各地でアサド政権軍に敗れた反体制派や過激派が大勢移送され、外国人戦闘員も多数残るとされる。

 なぜ、いま解放されたのか。日本政府はテロリストにはカネを払わないという立場で一貫しており、日本の政府高官は「身代金など解放の条件はなかった」としている。

 中東情勢に詳しい軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は「拘束していた組織が求めていたのは金銭だった。解放されたということは、金銭面で何らかの落としどころを見つけたからではないか」と指摘した。

 金銭が支払われていた場合、安田さんの家族が工面したのか、国が一時的に肩代わりしたのかは分からない。金額も不明。当初は150万ドル(約1億6800万円)の要求があったというが、解決額は一説には数千万円とも…。

「シリア解放機構も分派組織も、アサド政府軍の攻勢によって苦境に立たされていた。言い方は悪いが、そうした状況下で『安田さんばかりに構ってはいられない』と投げてしまった可能性もある」(黒井氏)

 気になるのは安田さんの健康面。7月にインターネット上で公開された動画では、白髪交じりで、顔には生気がなく、頬はゲッソリと痩せ細っていた。政府筋は、具体的な健康情報は入っていないとした上で「意識はしっかりしている」と述べた。

 黒井氏は「なにより、解放されて良かった。今後は彼の心身のケアが大事になってくる」と話した。