新幹線凶行の対処と限界 専門家は「完全に安全神話は崩壊」

2018年06月11日 17時30分

 神奈川県内を走行中の東海道新幹線内で、乗客の男女3人が刃物で襲われ殺傷された事件で、殺人未遂容疑で現行犯逮捕された愛知県岡崎市の無職・小島一朗容疑者(22)と被害に遭った乗客らに面識はなかった。小島容疑者は自殺願望を抱いていたというが、専門家がその心理を分析。誰もが被害に遭う可能性がある新幹線内での凶行からどう身を守るかについても語った。

 神奈川県警によると、小島容疑者は9日午後9時45分ごろ、新横浜―小田原間を走行中の東京発新大阪行きの東海道新幹線「のぞみ265号」の車内で、会社員の梅田耕太郎さん(38)を刃物で切りつけるなどして殺害しようとした殺人未遂の疑いが持たれている。

 20代の女性2人も襲われてけがを負ったが、女性は「(梅田さんが)止めに入ってくれた」と話している。小島容疑者はまず女性に襲い掛かり、それをかばった梅田さんが刺されたとみられる。凶器はナタのような刃物で、梅田さんの首には致命傷とみられる深い傷のほか、胸や肩にも多数の切り傷があった。梅田さんは約1時間後、搬送先の病院で死亡が確認された。小島容疑者と3人に面識はないという。

 親族によると中学時代、イジメが原因で不登校になった小島容疑者は、進路などを巡り父親との関係が悪化し自宅を出た。自立支援施設などを経て社会人生活も経験したが、人間関係がうまくいかず、母方の祖母が引き取って養子にしていた。その後、「俺は人と違う。生きてる価値がない」と家族に自殺願望を漏らし、約半年前に「旅に出る」と岡崎市の同祖母宅から出て行ったという。

 自殺願望を抱いた人間が他者を巻き込む心理について、元警視庁刑事で犯罪心理学者の北芝健氏は「自分だけの命が消えるのがもったいない。他人の命を犠牲にして自分の自己満足を得てから、自分の命がなくなるというゆがんだ感情なんです」と指摘する。

 2015年6月、男が走行中の「のぞみ」車内で焼身自殺し、乗客が巻き込まれ死亡する事件が起こり、JR各社は防犯カメラの増設など安全対策を強化してきた。

 しかし、「ホームなどで監視している人も警備会社のガードマン。彼らが私服で鉄道の中で見回りをしても捜索権限がないので、挙動監視しかできない。監視カメラも記録機能しかないわけだから、刺される切られるは一瞬なので、犯行現場を見ている人間が対処するしかない。原始的です」(北芝氏)。
 他に手はないのか。

 実は新幹線の座席シート(座面クッション)は持ち上げるだけで簡単に取り外せるようになっている。飲み物などをこぼしたときなどに、車内清掃担当が取り外して交換するためだ。今回、車掌が「シートの座面を外して盾にしてください」と指示し、実際にそうして逃げた乗客もいたという。

 さらに北芝氏はボディーガードを雇ったり、スプレーなどの護身用具の所持、防刃下着の着用などが対策にはなると言いつつも、「ボディーガードがいると旅を楽しめないし、護身用具は軽犯罪法違反になるものも多い。旅行なんてウキウキと駅弁を楽しみにしてるくらいなんだから、防刃下着を買う人なんていない」という現実にも言及する。

 また、空港並みのセキュリティーチェックも考えられるが「手荷物検査をすると乗客が激減するので、JRもなかなか踏み込めないだろう」といい、警察官の車内常駐も予算やプライバシーの問題があると指摘した。

 北芝氏は「日本も、のどかさがなくなってアメリカ化しており、完全に安全神話は崩壊している。現状では、刃物を持ち出した瞬間に、『何だろう』と見ているのではなく、逃げるしかない」とした。