4年間で事故19回「免許取消ナシ」の怪

2018年05月24日 08時00分

 過去4年で19件も交通事故を起こしていた運送業の男の危険運転が認められた。車を運転中に睡眠障害の影響で意識を失い、路上にいた男性に衝突してけがを負わせたとして、警視庁交通捜査課は21日、自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)の疑いで、東京都江戸川区の運送業・大場雅文容疑者(60)を逮捕した。事故件数が多すぎるのに、免許取り消し処分を受けてこなかったのはなぜか。現行の行政処分システムを交通ジャーナリストが解説した。

 大場容疑者の逮捕容疑は、1月21日午前7時5分ごろに中野区の都道で軽乗用車を運転中、睡眠障害による意識喪失で作業中の運送会社の男性(40)をはね、左すねの骨を折るなど全治6か月の重傷を負わせた疑い。男性は路上に止めたトラックの後ろで作業していて、2台の車に挟まれる形となった。大場容疑者は「これまでも運転中に眠くなることがあった」と容疑を認めている。

 警察は睡眠障害が運転に支障をきたすことを認識していたとして、過失運転致傷罪より法定刑の重い危険運転致傷罪を適用した。重度の眠気を催す睡眠障害の疾病を事故の原因として同法を適用し、ドライバーを逮捕したのは全国で初めて。

 医師の男がてんかんの発作で運転中に意識を失って東京・池袋で5人を死傷させた2015年の事件では、意識障害に陥る危険性を認識しながら運転していたと認定され、懲役5年の実刑判決が下された。大場容疑者のケースも被害の規模は違えど、同様の悲劇を起こし得る重大な犯罪である。

 大場容疑者は2014年以降、主に追突で19件の事故を起こし、うち7件が人身。今回の事故を含めて免許停止処分を3回受けている。「こんなに事故を起こして、なぜ免許取り消しにならないのか」というのが一般的な感覚だろう。

 交通違反には「点数」が加算され、点数に応じて免許が停止・取り消しになる行政処分が下される。指標となるのは「点数」と「行政処分の回数(前歴)」である。

 運転中に信号無視をして人に車をぶつけて全治2週間のケガを負わせると「計5点」の違反だ。前歴が「0回」では行政処分の対象外。しかし、「1回」では「停止60日」。「2回」では「取り消し」となる。

 過去4年で19回も事故を起こしているにもかかわらず免許取り消しにならないことについて、交通ジャーナリストの今井亮一氏は「点数計算は優遇される場合がある」と話す。

 免許停止の処分期間を終えてから1年の間に無事故・無違反であるなら、前歴や点数がまっさらにリセットされるのだ。

 処分を受けても1年間はおとなしくしていれば、何度でも“よみがえる”ことが可能だ。

 ただし、今回の事故の場合、事故の重さは「全治3か月~」に該当するため、付加点数は13点。さらに、事故には必ず「安全運転義務違反」として2点加算される。前歴はリセットされて「0回」だと考えると、本来は「0回」と「15点」であれば「免許取り消し処分」が下されていたはずである。

 この点については「事故後に公安委員会(警察)の意見聴取を受けたときに、『免許取り消しでは商売ができません』と泣きついたり、『睡眠障害は治療していて回復の兆しがございます』と訴えると、1ランク減じてもらえることがある。被害者も駐車禁止の場所で作業をしていた可能性がある。それらの事情を勘案して1ランク下の『免許停止180日』の処分が下されたのではないか」と今井氏は推測する。

 昨今、アマゾンなどのインターネット通販が盛んで配送業者は慢性的なドライバー不足だ。問題アリの運転手の手でも借りたい背景がある。

「今回の事件を機に、同じく睡眠障害を持つ運送業者が『じゃあ運転をやめるよ』とは言わない。また、同じことが起こり続けるだろう」

 そう話す今井氏は、今後の対策として「運転手の雇い主である運送会社や仕事の請負先に対して、睡眠障害を持つ運転手に仕事をさせた場合に業務停止などの行政処分を受けるシステムを作るしかない」と提案した。