「患者を治す立場の医者が、自分は食べすぎ、アルコールの過飲、運動不足など不養生で、若死にすることも少なくない」という意味だ。

「髪結いの乱れ髪」「紺屋の白袴」「人相見のわが身知らず」「坊主の不信心」も同様の意味がある。

 医者と坊主は、健康や生命に関わる仕事をしているので「聖人」であるべきと世間一般では考えられているので、不祥事(とくに女性関係)を起こすと、面白おかしく、取り上げられる。

 よって「医者魔羅八寸、坊主魔羅九寸」(魔羅は男性器の古称。医者と僧侶は意外に助平)という諺があるのだろう。

「医者、役者、芸者」という言葉は、三者とも人気商売、という意味であるが故、「医者は見かけによらぬもの」という諺もあるのだろう。

 研究や手術などで多大な業績をあげた医者が開業して、流行るとは限らない。

 愛嬌があり、患者受けする医者は「やぶ医者」でも大流行りしていることもある。

「やぶ医者の玄関」という諺は「玄関と建物の立派さで患者を信用させようとする医者がいる」という意味だ。

 そもそも「やぶ医者」の「やぶ」は「藪」で「竹藪をかき分けて往診に行くような辺ぴな所に住み、技術が未熟であるため、流行らない医者のこと」を言う由。

「医者の“い”の字は、命の“い”の字」という諺がある如く、本当は「患者の命を預かり、その病を医やす」者なのであるが、これほどまでに医者を揶揄する“金言”があるとは!

◆石原結實(いしはら・ゆうみ)1948年、長崎市生まれ。医学博士。イシハラクリニック院長として漢方薬と自然療法によるユニークな治療法を実践するかたわら、静岡・伊豆でニンジンジュース断食施設の運営を行う。著書は300冊超でベストセラー多数。最新作は生島ヒロシ氏との共著「70代現役!『食べ方』に秘密あり」(青春出版社)。