食事をした際などにむせることはあるが、毎回続いたり頻度が高くなると嚥下(えんげ)障害の症状を疑ってもいいかもしれない。誤嚥性肺炎を引き起こす危険性もあるため、注意が必要だ。原因や予防法を耳鼻咽喉科医の蛯名彩医師に教えてもらおう。

 ――嚥下障害は高齢者に多くみられる病気ですか

 蛯名医師(以下蛯名)嚥下とは、食べ物を口の中に入れてから胃に届くまでの一連の過程のことを言います。高齢になると嚥下がうまくできなくなり、嚥下障害を引き起こす確率も高くなるのです。日本人の死因5位は肺炎ですが、その多くは高齢者の誤嚥性肺炎と言われています。誤嚥性肺炎を引き起こす背景には嚥下障害があり、そのため、高齢者に多い疾患と考えます。

 ――具体的にはどのような症状があるのでしょうか

 蛯名 食事のむせ込みや食後の声のかすれなどがあります。例えばお茶やおみそ汁などの液体ですね。嚥下障害で患者さんが苦労されるのは固形物よりも液体が多いです。普段の生活の中でむせることは誰にでも起こりますが、嚥下障害になると毎回むせるようになります。その時に特に液体でむせるような場合は嚥下障害が疑われます。また、むせ込みが続くことで食事を食べなくなってしまうこともあります。

 ――主に考えられる原因を教えてください

 蛯名 口の中や喉の筋力が年齢とともに低下することで空気の通り道と食べ物の通り道をうまく分けられなくなってしまうのです。また、高齢になると口の中の感覚も低下してきます。食べ物をのみ込んだときに、喉に入った感覚があると思いますが、なんとなくそれが分からない状態になってしまいます。そういったものが原因として挙げられます。

 ――主な治療法

 蛯名 治療には訓練がいくつかあります。喉を受動的に開きやすくする頭部挙上訓練や舌の筋力を鍛える舌背挙上訓練、食べ物を細かくする口の訓練として咀嚼訓練。そのほか、誤嚥性肺炎を防ぐために、口の中をきれいにしておくことも大切です。

 ――予防法などはあるのでしょうか

 蛯名 みそ汁やお茶などの液体にとろみをつけて、ゼリーや茶わん蒸しなどの硬さにしてむせにくい食事形態にするとよいでしょう。どうしてもサラサラとした液体を飲みたいという方もいますが、1つの方法として参考にしてください。また、頸(くび)が反った状態だとむせやすいので、おへそをのぞき込むようにして嚥下してもらったり、頸を曲げることで喉を広げる方法(頸部屈曲法)があります。

 ☆えびな・あや 有明みんなクリニック田町芝浦院院長。日本医科大学医学部卒業。都内の病院で研修の後、がん研究会有明病院頭頸科に入職、都内クリニックなどを経て有明みんなクリニック耳鼻咽喉科管理医師に就任。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本甲状腺外科学会専門医、医学博士、補聴器相談医。