【病気を吹き飛ばす食図鑑】古希(70歳)の言葉の元となった「人生古来稀なり」の詩を書いた杜甫(712~770)、かの陶淵明(365~427)、李白(701~762)など中国の詩人たちは、大量の酒を飲んでは、その酒の酔いがもたらす“詩情”で多くの詩を残した由。

 李白は一斗(中国の一斗は日本での約1升=1・8リットルに当たる)の酒を飲むと、たちまち百首の詩を作った、という。

 古来、中国では酒は文人の楽しみの1つで、白楽天(772~846)は三友として「酒」「詩」「琴」をあげている。中国の文人は、とてもロマンチストであることがわかる。

 しかし、徒然草で有名な吉田兼好(1283~1352)は、三つの良き友として「物くるる友」「医師」「知恵ある友」をあげており、あまりに現実的である。

 ひとり酒場で 飲む酒は 別れ涙の 味がする 飲んで棄てたい 面影が 飲めばグラスに また浮かぶ

(石本美由起・詞、古賀政男・曲、美空ひばり・歌)

 うらみっこなしで 別れましょうね ~~ それでもたまに 淋しくなったら 二人でお酒を 飲みましょうね

(山上路夫・詞、平尾昌晃・曲、梓みちよ・歌)

 涙、うらみ、未練、ため息、淋しさ…を直接的、間接的、または端的に表わす言葉として酒がある。こうした詩を作った詩人も、酒に釣られて詩作をしたに違いない。「百薬の長」にも「気違い水」にもなる酒は、静かに味わって人生の糧にしたいものである。

 白玉の 歯にしみとおる 秋の夜の 酒は静かに 飲むべかりけり(牧水)

 ◆石原結實(いしはら・ゆうみ)1948年、長崎市生まれ。医学博士。イシハラクリニック院長として漢方薬と自然療法によるユニークな治療法を実践するかたわら、静岡・伊豆でニンジンジュース断食施設の運営を行う。著書は300冊超でベストセラー多数。最新作は「50歳からの病気にならない食べ方・生き方」(祥伝社)。